「泡にもなれない恋ならば」の感想です。

三月えみ先生の新刊は初の麗人コミックスです。表紙の通りに美しく切なく、読後に温かな気持ちになれる短編集でした。

長編とは違って短いお話で満足感を得るのはなかなか難しいのですが、こちらはどのお話もまとまりがよく充実していました。

「神様」がひとつのキーワードになっているシリーズがメインストーリーですが、冒頭とラストを飾った短編も抜かりなく素敵でした。

それでは以下、三月えみ先生の「泡にもなれない恋ならば」の感想です。ネタバレ注意です。

泡にもなれない恋ならば 三月えみ 電子書籍



泡にもなれない恋ならば 感想 ネタバレあり


泡にもなれない恋ならば


大手で環境の整っているはずの転職先で仕事がうまくいかず、人間関係も微妙でやさぐれ状態の小林(受)

本当は同僚の石原も一緒にこの会社に転職するはずでしたが、石原はなぜか辞退。結局は小林だけが転職をする形になりました。

小林が職場で次にプロモーションする映画は人魚姫のオマージュ作品。美しい自己犠牲をテーマに売り出したい会社の方針に対して、小林はもっと醜いエゴをテーマに据えたいと社内でもぶつかっていました。

やけになったように、ゲイである石原の男遊びに首を突っ込む小林。好奇心も手伝って石原と身体の関係を持ってしまってから、自分の石原への恋心に気づきます。

石原のほうは小林の気持ちにはとっくに気づいていて、だけど踏み込めなかった。きっと小林が自分の気持ちを自覚するまで待っていたのでしょう。

職場が変わっても環境が整っても、そこでいい仕事ができるとは限らない。人間関係が良好に進むとも限らない。社会人にはなんとなくドキッとする描写でした。

映画は結局小林の推す方向性へと変わります。それが小林の出世作となるという明るい未来が見えるラストが素敵でした。

その神は役場にいる


神様シリーズ1作目です。

亡くなってしまった蓼科の幽霊が見えるようになった鳥海(受)は、自分のせいで蓼科を死なせてしまったと人知れず自らを責める日々を過ごしていました。

蓼科をかわすためのカモフラージュとして付きあうことにした立山との関係はいつしか身体の関係に至り、鳥海の立山への気持ちも後戻りできないところまで進んでいきます。

しかし鳥海は後悔と懺悔の気持ちから、幽霊になった蓼科に向こうの世界に連れて行かれても仕方がないと生きることをあきらめかけていました。

立山のほうもまた鳥海に本気になり、さらに「神」と呼ばれている役場の赤石の手助けもあって、無事に生気を取り戻すことに成功した鳥海。

「水に落ちたのが鳥海じゃなくてよかった」成仏できそうな蓼科の残した言葉が切なかったです。安らかに眠って天国でステキな人とまた出会えることを祈っています。

死ネタはどうしても切なくて哀しくなってしまうのですが、残された人の生きる道に一筋の光を見ることができて一番余韻の残るお話でした。

今日も神は役場にいる 前後編


神様シリーズ2作目は前後編で1つのカップルのお話です。

専門学校の担任の穂高先生(受)を好きになった旭(攻)は、どこかひょうひょうとしていてつかみどころのな穂高にどんどんのめりこんでいきます。

だけど穂高には忘れられない元恋人がいました。旭を利用していたことで、だんだん心苦しくなって別れを切り出す穂高先生。

逃げる穂高先生にまっすぐにぶつかっていく旭が眩しかったです。

「先生のいいところは全部教えてあげるから!どこかが好きだから好きなんじゃなくて、好きになったから全部好きなんだよ!」

若くて純粋で誠実な旭の言葉が心に沁みます。実は旭は幼いころに両親を亡くしていて、死というものにたったひとりで向き合ってきた過去がありました。

役場の「神」であり霊能力のる赤石によると、実は穂高先生の元恋人は死んだわけではなく、どうやら穂高先生は体よく捨てられただけ。。。穂高先生はその事実を受け止めきれなかったんですね。

そんな酷い相手でも「生きていてよかった」と言える旭の器の大きさに感動しました。本当にいい子だなあ。

旭が泣いてくれたおかげで穂高先生も泣くことができ、本当の意味で元恋人をふっきることができたのでしょう。旭という人が穂高先生のそばにいてくれて良かったです。

重たくてめんどくさい男でもある穂高先生。まっすぐで男らしい旭。お互いに好き好き度合を競争しながら末永くラブラブに過ごす未来が見えて爽快でした。

僕の神は役場にいる


神様シリーズ3作目。神様関係の短編ラストは霊能力で亡き人と交信できる「神」様・赤石(攻)とその同僚・荒島(受)のお話です。

10年近く赤石に片思いしていた荒島ですが、気持ちはバレバレ。赤石のほうはそのダダ漏れの気持ちを無視できなくなり2人は付きあうことに。

特別な能力を持つ役場の「神」様である赤石は、言ってみればみんなの聖域。ひとり占めしてそれを汚すことはできないと、荒島は一度は別れを提案します。

しかし赤石は特殊な力があってもただの男。ピュアな荒島は赤石にとってなくてはならない浄化の意味を持つたったひとりのかけがえのない存在なのでした。

ずっと人を救うばかりだった神様赤石が、ようやく荒島ととくっつくことで救われて良かった。「荒島は僕の神様だ」と言う赤石の笑顔が幸せそうで何よりです。

いい子でごめんね!


ラストは明るく楽しくレッツ愛の主導権争い!なお話です。オチも早い段階で薄々分かるのに最後まで楽しく読めました。

叔父さんである翠のイタズラによって、翠でしかイケない身体を作りかえられてしまった高校生の世良。

いつか翠を見返そうとヤンキーになっていきがる世良に、責任を感じた翠は更生させるべく勉強を教えることに。。。

何かと「ヤらせろ!」と勢いよく襲い掛かるも反撃されていなされてしまう世良。そんな世良に翠は大人として余裕の表情です。

結局は翠×世良に落ち着きそうな2人ですが、世良が大人になったら逆もありかもしれないなと無限の可能性を感じました。

まとめ


表題作は詩的で切なく、次いで神様シリーズはしっとりと、締めくくりはライトでポップな作品というまとまりのよい1冊でした。

神様シリーズは、特別な能力のあることで昔から孤独だった赤石が救われてホッと安心しました。

これまで人の幸せの手助けばかりしてきたことでしょうから、これからは荒島と一緒にラブを補充していってほしいものです。

そんな赤石に影響を与えた旭と穂高先生のカップル。年下である旭のまっすぐさやひたむきな愛は、これからも周りをも動かしていくことでしょう。

旭のような一生懸命で気持ちの良い子は見ていて元気をもらえるし、全力で応援したくなりますね。

「いい子でごめんね!」の翠が実は昔やんちゃをしていて影の実力者だったというのが中二心をくすぐって最高でした(笑)ビジュアルはこの短編の中で翠が一番好みです。

短編集は続きが読みたくなることもしょっちゅうありますが、すべてこの1冊で完結しているのは新鮮でした。

ちゃんと全てにエロエロしいキスやエッチが収まっていたのも満足度をアップさせた要因かなと思います。

三月えみ先生の作品を最初に読むなら「ハートの鍵を手に入れろ!」や「きみと見た ほうき星を探して」をおすすめしますが、何冊か読んだ後に作風が合えばぜひおすすめしたい短編です。

長編に並ぶ満足度でますます三月えみ先生のファンになりました。

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