物語も佳境に入り、そろそろ終着駅も遠からず見えてきたのかなという感じの黒瀬くんの過去回。30話では小学生の黒瀬少年が大人の西垣さんを、という高いポテンシャルを見せてくれました。
城谷さんもですが、黒瀬くんもヘビーな過去を抱えて生きてきたことが明らかになりつつあり、そこを経て今出会った2人の関係性。出会うべくして出会ったとしか言いようのないこの2人。
どんなに重くなっても最後まで見届けたいと思いました。復習用に前回30話の感想はこちら。ネタバレしているのでご注意ください。
テンカウント30話ネタバレ感想 ディアプラス5月号
以下「テンカウント」31話、家庭内でつらい状況におかれた小学生時代の黒瀬くんの過去回想の続きからのネタバレ感想です。
今回は扉絵なしの本編が27ページと多めで読みごたえもたっぷりです。テンカウント5巻収録分の感想になりますのでコミックス派の方はご注意ください。
父親に、学校の友達に借りた本かと問われた黒瀬少年は、西垣家で見た著者の本であることを伝えます。
母親には冷たくあしらわれましたが、めったなことでは向けられない関心が自分に向き、お父さんとの会話が嬉しかったというのもあるでしょう。西垣さんの名前を出して、一生懸命父親と話す黒瀬くんの姿がなんともいじらしくて切ないです。
しかし問題はここからでした。
西垣さんの名前を聞いた母親の口から告げられたのは、衝撃的な事実。西垣さんは夜逃げなのか突然いなくなり、失踪したと近所でも噂になっているようで…
「それとも自殺?」息子の目の前で、息子が出入りしていた家人のことをこともなげにあっさりと言ってしまえるこの神経。さすがに父親にたしなめられますが、この人に自分が母親であるという自覚はないようです。
黒瀬くんを変な子呼ばわりしたあげく、あんな家に出入りしていたのかと批判めいた口ぶりの母親は、近所の人に見られてなきゃいいけどと、ここでも黒瀬くんの気持ちなど考えようともしません。
うーん黒瀬くんのお母さんは、小学生(黒瀬くんこの時11歳とか12歳くらい?)の息子がいるとは思えないくらい若々しくてスタイルも良くておしゃれで綺麗な人なんですが、相変わらず言葉を選ばないというかなんというか。
息子に「変な子」と面と向かって言っちゃうとか、母親というよりは黒瀬くんを「ただの同居人」としてスルーするような軽い扱いや、その言動の数々には閉口してしまいますね。。。
両親の前では表情を変えず、ひとり静かに自室に戻る黒瀬くん。
俺のせい?
真っ青になって本を持つ手が震え、頭を抱えて先日の出来事を思い出します。あの時、自分が居ればいいじゃんと押し倒してしまい、西垣さんに追いだされてしまった。
もしかして西垣さんが失踪したか死んだのは、自分のせいかもしれない。小学生という子どもならパニックになってもよい状況なのに、そんな時すら黒瀬くんが思うことはただひとつでした。
やっぱり俺は西垣の特別だった。
黒瀬くんの頭を占めていたのは、西垣さんの行方やその安否ではなく、ましてや自分が追いつめてしまったかもしれないことへの自責の念でもなく、自分が西垣さんにとって特別な存在であったということの事実確認。
幼い黒瀬くんのその大きな瞳に映るのは、苦悶か歓喜か。絶望か希望か。あるいは恍惚としているようにも見えるその瞳の奥には底知れぬ孤独感が今にもあふれそうなのか…
はっとして先ほどの母親の言葉を思い出し「俺は変なんだ」と感じる黒瀬くん。ふと西垣家にあった古い本を思い出します。
ボロボロになるまで読み込んであった「とらわれる生き方」という小説。ぱらぱらとしか見なかったあの本をちゃんと読めば、何か西垣さんのことが分かるかもしれない。
黒瀬くんは「とらわれる生き方」を取り寄せ読み始めます。それは不潔恐怖症に捕らわれた人の寂しさや苦悩を描いた小説でした。
世間から切り離される恐怖や、誰からも愛されていないと感じる寂しさ。不潔恐怖症ではないのに、自分を重ねて大粒の涙を流す黒瀬くん。そしてこみ上げてきた後悔。
自分なら西垣さんを救えないにしても、せめて背中を押せたかもしれないのに。あの時、西垣さんには自分しかいなかったのに。
なのに自分の傍から西垣さんがいなくなることが嫌で、外の世界に目を向け始めた彼の背中を押せなかった。
後悔が押し寄せてくる瞬間に、とめどなく流れる黒瀬くんの涙がとても痛々しいです。小学生にしてこんなことを考えさせられてしまうとは、なんと酷なことでしょう。
親が親として、家庭が家庭として機能していない環境下で育つと、子どもは成熟せざるを得なくなってしまいます。
何をしても無関心な親を前に、愛されたり子どもらしく甘えたりすることもなく、物わかりの良い大人のようにふるまうようになってしまう。
親に対する期待も薄れ半ばあきらめかけているような黒瀬くんは、現に親の前では西垣さんの失踪に対して動揺すら見せませんでした。
しかしそれゆえに、だからこそ西垣さんの存在は黒瀬くんにとってはとても大きなものだった。たったひとつの心のよりどころだった。
なのに、それを失ってしまった。。。
今度は、今度こそは間違えない。西垣さんみたいな人を救いたい。そのために懸命に勉強してカウンセラーになった黒瀬くん。
結局、西垣さんの行方は分からないままでした。私は生きていると思うし、今後黒瀬くん達の前にまた現れる可能性すら少なからずあるような気がしています。
西垣さんについては大方の予想通りではありますが、死んだら死んだと描くような気がするんですよね。あえて失踪かもしれない、自殺かもしれないとぼかしたということは、これは現在での再登場・再会フラグになってもおかしくないのでは。
黒瀬くんの過去が多少あっさりな感じがして、もう少し西垣さんとのエピソードがあっても良かったなーと思ってしまいます。西垣さんの謎も大きいから、余計に気になります。
私としては、西垣さんはあの後どこかで誰かと幸せに暮らすようになっていて、現在の黒瀬くんと再会するという形がいいな。
城谷さんが黒瀬くんと西垣さんとのことを誤解するとかのゴタゴタもありつつ、お互いにきちんと過去を清算して、城谷さんは西垣さんの代替品ではないということが城谷さんにも伝わって、めでたしめでたし。というのがありきたりですがいいかなと思います。
まあ、そんな思い通りにはいかないか。なんといっても宝井先生だし(褒めてます)
次にどうくるか分からないのが創作のおもしろさであり、テンカウントのようにすべてを説明しないタイプの妄想や予想の余地がある漫画はやはり楽しいです。
さて翌朝。目覚めた城谷さんはベットの上でひとりぼんやりと、自宅じゃないことに気づくもマッパなのでとりあえずシャツを探します。かわいい。もうかわいい。日本一かわいい。
夕べの黒瀬くんとのお楽しみはこの時点で抜け落ちてるのが天然すぎて、思わずほっぺたをギューってひっぱりたくなります。かわいい。もうかわいい。世界一かわいい。
ようやく気づくのが、シャツを探してかがんだ時に後ろから黒瀬くんのがとろーりととろけ出たとき。おそっ!城谷さん気づくのおそっ。うーんかわいい。もうかわいい。宇宙一かわいい。もういい。
思うに、城谷さんが黒瀬くんよりも早く起きてベッドから抜け出すのは難易度が高すぎるミッションのような気がします。
いつも黒瀬くんが先に起きてコーヒーを用意してくれるから、たまには黒瀬くんよりも早く起きて自分が、とか城谷さんが画策するんですけどベッドの中で城谷さんが少しでも身じろぐと、犬並みの嗅覚でそれを察知して光の速さで自分の腕の中に引きずり込む黒瀬くんを誰かください。
…話を戻しましょう。
何を思ったかふと真顔で手帳を取り出す城谷さん。とうとう本音を言えて、受け入れてもらって合体して心境の変化があったのでしょう。黒瀬くんと一緒にこなしてきたことの、空欄になっていた最後の10項目めを埋めたようです。
城谷さんにとってはとてつもなく濃い1日でしたよね。我々読者は何か月もかけて連載を読みますが、城谷さんにとってはたった1日でのまさに急展開です。
2か月間の完全放置期間から、突然の密室で再会。さらに停電でエレベーターに2人きりで閉じ込められて、本音をぶちまけて黒瀬くんの胸で大泣き。からの、黒瀬くんを追いかけて来てとうとう合体。
台風接近による荒れ模様の天候に合わせたような怒涛の1日だったはず。30歳を超えてなおあんなに頑なだった城谷さんがここまで懐柔されるとは、やはり黒瀬くん恐るべしというべきですが、城谷さんもかなり頑張りました。
起き出してキッチンにやってきた城谷さんに気づいた黒瀬くんは、シャツ1枚の城谷さんを見て「俺はまた間違えた」とひとりごとのように呟きます。うつむきがちな黒瀬くんに、その言葉の意味が分からない様子の城谷さん。
黒瀬くんの言葉は西垣さんのことを思いだしたからですよね。今度こそ間違えない、西垣さんのような人を救いたい、背中をしたい。
そう心に誓ったはずなのに、背中を押すどころかまた自分の手元に置いて囲ってしまった。葛藤がありながらも抗えなかった独占欲や所有欲。
西垣さんを救えず、手に入れることもできないままに失ってしまい、どちらもが叶わなかったがゆえにいっそう黒瀬くん自身をがんじがらめにしているその過去。
苦々しい過去への後悔の念。大切だと、特別だと感じていた人を自分のせいで死に追いやってしまったかもしれないというつらい経験。
西垣さんを救えなかったぶん、他の誰かを救うことで罪滅ぼしをするように生きてきた黒瀬くんもまた、城谷さんと同じく、西垣さんのことを消化しきれないまま、自分の過去に捕らわれて生きてきたわけです。
しかし――。
ふと城谷さんに近づいて髪に触れる黒瀬くんですが、城谷さんはもう嫌がるそぶりも、あたふたするそぶりも見せません。おお!なんという成長っぷり。
調教の成果が徐々に実を結んできました。もう城谷さんが女王様となる日は近い。あ、もうなってるか。
もうこんなふうに触られるのも少し慣れてきた、と静かに黒瀬くんに告げる城谷さん。そんな城谷さんを見てふっとその手を離す黒瀬くんの表情は、驚きと少しの戸惑いが入り混じったようにも見えます。
そしてチラ見せで気になっていたあの城谷さんの表情です!城谷さんまさかのヤンデレ化か!?と内心ざわついてしまいましたが、そういう感じではなさそうでホッ。
髪のトーンの貼り方が絶妙でヤンデレに見えなくもないですが、ここはどうやらカップルの「カレったら夕べなかなか離してくれなくって今日は身体のあちこちが重いのテヘ」(違)という事後の寝起きの気だるさと考えてよさそうです。
実は城谷さんの目には、黒瀬くんは手を振り払うのを待っているように見えていました。まるで城谷さんを試すように。黒瀬くんが何かに怯えたように見えるという城谷さん。
ここへきて、押せ押せ(に見えていた)黒瀬くんと、たじたじ(に見えていた)城谷さんという立ち位置に変化が見られます。城谷さんも今までの城谷さんとは違ってきている。しかし黒瀬くんのほうは――?
黒瀬くんが自分を試しながら、迷いながら、怯えながら、探りながら、ここまで自分との関係を築いてきたのだということをなんとなく感じとっていた城谷さん。
穏やかな表情のまま、素直に思ったことを伝える城谷さんの口から出た言葉は、他意がないないたけに黒瀬くんを直撃します。
無表情がデフォルトの黒瀬くんを焦らせることができるのは、やはり城谷さんしかいません。無自覚に無意識に、あの黒瀬くんをじわじわと追いつめる城谷さんがあっぱれです。
さらに言葉を重ねる城谷さんは、先ほど手帳に10個めの項目を書き込んだことを伝えます。そして約束通り、黒瀬くんの「理由」を教えてほしい、と。
城谷さんのまっすぐな言葉に一瞬言葉に詰まる黒瀬くんでしたが、そこはすぐに立て直して城谷さんを抱きしめます。城谷さんを潔癖症だから好きになり、しかし潔癖症でなくてもきっと好きになった。そう告げる黒瀬くんの言葉はおそらくは本心なのでしょう。
自分がどんなに騙そうが酷いことをしようが懐いてきた城谷さんのことを、黒瀬くんはかわいくてかわいくて仕方ないと感じている。
だからこそ手放せなくなったのでしょう。自分の手を振り払った西垣さんとは違う反応を見せる城谷さんを。本当は西垣さんにこうしてほしかったということを、何も知らないはずの城谷さんが見せてくれるから。自分が赦されたように思えるから。。。
城谷さんの目を見て気持ちを伝える黒瀬くんは、いつもの無表情とは違って優しく柔らかいものに満ちています。しかし、眉が下がり目元もわずかながら赤く染まり多幸感にあふれているのに、どこか寂しげで今にも泣きだしそうな黒瀬くん。
黒瀬くんの西垣さんとの過去を知っている私たちから見ると、切なくなるようなぎゅっと胸をつかまれるような気持ちになりますが、何も知らない城谷さんは突然の甘い告白に真っ赤になっておたおた。
まだまだ甘いシーンには慣れない初心な城谷さんが、ただただ愛しくて尊い存在に思えてしまいます。
黒瀬くんとしては、最初は西垣さんと城谷さんを重ねたことがきっかけなのでしょう。自分の罪を償いたい、だから今度は失敗しない。頃合いを見計らって手を離そう。あの時できなかったことを。
もしかすると黒瀬くんはそんなふうに思っていたのかもしれません。なのにそうはいかなかった。一旦手を離しはしましたが、幾度となく訪れる偶然や機会に導かれるように、結局は一緒にいることになってしまった。そうせざるをえなかった。
最初の出会いもエレベーター事件もですが、偶然にしてはあまりにも必然的に2人は出会います。これを運命と言わずしてなんといえばいいのでしょう。出会うべくして出会った2人は、いつしか離れらなくなってしまった。
見つめ合い「俺を捨てないでくださいね」と言う黒瀬くんの、どこか頼りなげな泣きだしそうな表情に、思わず城谷さんは黒瀬くんが年下であることを今さらながらに自覚します。
夜を共にした2人の翌朝の甘くて切ない時間。このまま心穏やかに過ごせたらいいのですが。というところでテンカウント31話は終了でした。
ふう。最後の城谷さんに見せた黒瀬くんの泣きそうな笑顔に切ないながらもなんだか癒されて、そっと励まされたような不思議な気分です。ページ数も多めで濃い31話でした。
この感想を書くのに何時間もかかる私ってばいったい。いろいろと考えて深読みするのが好きなんですよね。また西垣さんと再会するかはともかく、黒瀬くんの過去が明らかになりカウンセラーになった経緯も判明しました。
合体も済ませ、あとは10番目の項目を城谷さんがこなすこと。テンカウントは物語の終着点に着実に向かっているんだなあと実感しました。
あと、黒瀬くんて本当にいい身体をしてますね。ガチッとしているけどムキムキの筋肉自慢ではなく、ほどよく引き締まった細マッチョ。
もともと宝井先生の絵柄は綺麗系ですが、テンカウントではいっそう男性の男性らしい体つきというか、筋肉の質感がずっしり重みを増していてステキです。
設定では黒瀬くは高校の時は陸上部だったんですよね。身長もあるしあの顔面だし、さぞや男女問わずモテてきただろうなあ。大学時代とか、城谷さんと出会う前はどんな人と付き合ってたんだろう。
いいお店とかも知っているし、同級生とかよりはうんと年上のおじさまとかのほうがしっくりくるような気もしますね。
「ハタチの大学生だった頃に有名男性芸能人と愛人関係にあった」とか突然言われても、黒瀬くんなら違和感がない感じ。年下よりも年上のお兄様お姉さまに気に入られそうだし。
黒瀬くんも城谷さんも2人とも重い過去を背負いながら生きてきたわけですが、誰しも人には言えない秘密の一つや二つはあるもので、大なり小なり問題を抱えながら学校に行ったり仕事をしたり家庭をもったりして生きています。
過去が自分を形づくり、そのせいで自分自身を苦しめているという人も少なからずいるのではないでしょうか。自分の性格が自分を苦しめている。分かっているのにどうしようもできない性分のようなもの。あいたたた。自分て書いてて私自身の耳も心も痛いです。
私は職場でイロイロあって苦戦したり苦戦したり苦戦したりしていますが、どうしても辛いときは離れるという勇気も持ち合わせながら、もうちょっと頑張ってみようかなと思いました。
生きていると思いもよらないことがいろいろありますが、息抜きにBL読んで皆で頑張りましょうね。。。
ところで三上きゅんの登場マダー?(何回言うんだ)お気に入りなんですよね私、三上くんを。
宝井先生のおっしゃる「三上には設定がある」というこの設定が、黒瀬くんが三上くんに嫉妬していたことの伏線回収につながったりすると最高じゃない?と密かに待ち構えています。顔立ちからしてモブキャラじゃないですよね三上きゅん。
三上くんにも西垣さんにも再登場を期待しつつ、黒瀬くんはイケメンだし(重要)、エロエロ展開の時はテンションが上がって祭りだ祭りだみたいになるし(超重要)、一転シリアス展開になるとぐっと深みを増すテンカウントが私は大好きです。
漫画を読むときはその時の自分の心境によって解釈も変わってくる作品がありますが、キャラクターの過去を知るたびに我が身をふりかえりつついろんなことを考えさせられる漫画に出会えたのは幸せです。
というわけでまた長い長い私の脳内がダダ漏れの感想におつきあいいただき、ありがとうございました。また次回、6月14日発売のディアプラス7月号、テンカウント32話でお会いしましょう。
追記)32話の感想も書きました。
テンカウント32話ネタバレ感想 ディアプラス7月号
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実写映画になったセブンデイズは「このBLがやばい2010」で5位受賞作です。
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