真木(三好)の顔をはっきりと映さないかもしれないなーと放送前はぼんやりと考えていましたが、そんなことはありませんでした。甘かった。IGさんは言い訳も憶測も何一つ入り込む余地のないほど愚直なまでに三好の死に真摯に向き合い、その死をはっきりと描写してくれました。
冒頭のナレーションで三好があの飄々とした艶のある声で話し始め、まず私たちを奈落の底に突き落とします。
その後、ヨハンによって撮られた死体の写真に写った三好。瞳を開けたまま一文字に口を閉じ穏やかにすら見える美しい顔のままの三好は、壮絶な列車事故に巻き込まれたとは到底思えぬ静けさでそこに横たわっていました。
全身写真のみならず顔のアップの死に顔まで見せられてしまうともう私たちは閉口するしかありません。まさに絶句。
異国の地に潜み誰にも正体を明かせないまま真っ暗闇の孤独に耐え、自分はこれくらいはできるという自負心のみによって動くスパイ。信じられるのは必要とされるのは、どのような状況に置かれても己の一瞬の正しい判断のみ。
死ぬな殺すなを掲げるD機関。しかしどんな人にも訪れうる避けられない不運の死。無敵にも見えた結城中佐の元で腹心として認められ、ドイツで粛々とスパイマスターとして有益な情報を日本にもたらしていた三好でも事故死は免れなかった。
しかし悲惨な事故の犠牲者にして即死であったと推測されるも、一瞬の恐怖も絶望も焦燥も何も感じさせない穏やかな三好の死に顔。
1話から何度も繰り返されてきた「スパイは死ぬな殺すな」
人の死は完全にコントロールできるものではなく、時に運命は残酷に選択を迫ってきます。孤独なスパイに求められているのは不測の事態におけるとっさの正しい判断力のみ。
その不測の事態の死に際においてなお、スパイが成すべきこととは一体何か。
先ほど会ったばかりの結城中佐が必ず、ドイツ軍よりも早く自分の死後、自分の元へやってくる。
激痛に顔をしかめながらも口元で「勝ち」を確信した三好は、協力者のリストの隠し場所に自らの血で目印を付け最後の仕事を終えます。
スパイマスターとしての仕事をやり遂げ自分の人生の終幕を目前にしたとき、三好は何を思い何を感じていたのか。
三好にとっては、数時間前に直接情報を渡したのが結城中佐であったことこそが、安堵の表情で死を迎えることができた最大の理由なのでしょう。
優秀なスパイである自分の最後の仕事を、あの人なら受け取ってくれるだろう。誰よりも早く自分の死体を見つけ、残したサインを読みとり、何事もなかったように処理してくれるだろう。あの人なら。
三好は自分のスパイとしての能力と同時に結城中佐を信じていたのです。
三好はリストが敵の手に渡ることがないと確信していました。だからこそ死に顔があんなにも静かで穏やかだった。いっそ清々しい程に。
スパイにとって死はすべての終わり。永遠に正体を知られることなく日本から来たひとりの美術商として死んでいった三好は、スパイとしての人生を全うしたと言えましょう。
誰にも抗い難い不慮の事故によって、これまで一切尻尾を掴ませずにいた三好の人生が思わぬ形で終焉を迎えます。任務中の不運の死ですらどこか計算の内にあったのではないかと思えるほど見事だった三好のスパイ人生。
三好が残した爪痕は決して小さいものではなかった。三好がその高い能力で痕跡も残さずに立ち回り、本国に送り続けていた情報。
死してなお守りきった情報の数々はこの後も生き続け、それこそが三好が生きた証となるに違いありません。
若き日に片腕を失ったドイツという因縁の土地へ自らの腹心ともいえる三好を送り込み、唐突に失ってしまった結城中佐。任務を遂げた三好の目をそっと閉じた結城中佐は、また真っ暗闇の中へとひとり還っていくのでしょう。
アニメ11話の「柩」はまぎれもなく三好回であり、同時に結城中佐回でもありました。若き日の魔術師・結城中佐が痺れるほどかっこいいのは予告でも十分伝わってきましたが、三好についてはほとんど伏せられたまま放送当日を迎えました。
おかげで私たち視聴者はずっともやもやしっぱなしでしたが、これもまたアニメ公式の仕組んだ罠のひとつだったのかもしれません。
なにせ若かりし頃の結城青年にもっていかれて、真木(三好)の存在が霞むかと思いきやまったくの逆だったのですから。このしてやられた感がなんとも心地よくて爽快です。
情報を手渡すために結城中佐と会ったとき、三好はいつも通りの飄々とした余裕の笑みで報告を済ませ、さらりと軽口をたたいて別れたのではないでしょうか。「ではまた」と言ってふりかえりもせずに。
情報の受け渡しを絵にしておきながらもそのあたりをいっさい描写しなかった公式には、盛大な拍手を送りたいですね。余計なものを全て剥ぎ取り、むき出しのままの「柩」をアニメ化してくださってありがとうございます。
11話がジョーカーゲームにおいて重要な回であることがよく伝わってきて感無量でした。(ちなみに雑誌によると5話の神永回も重要な回という位置付けだったそうです)
結局、小細工なしに真正面から原作通りに「柩」は描かれ、真木である三好は死にました。ナレーション以外にひとことも声がつかなかったのに、だからこそいっそう真木である三好の存在を私たちに強く意識させる結果となりました。
セリフがないのにここまで私たちを魅了した「柩」の三好。神永と並びD機関員のまとめ役として結城中佐に扱われていただけのことはあります。あっぱれ。
11話全体の印象としては、ヴォルフ大佐が(人間的に)まるくなっていたこと、ヨハンが(意見するなど)ヴォルフ大佐に対して物怖じしない姿勢であったこと以外は、ほぼほぼ原作通りの流れでした。
3話「誤算」のような目立った改変もなかったと思います。しかしよくあの柩を20分にまとめあげてくれました。作画も一切の乱れなく劇場版を見ているかのような完成度。
結城中佐は、22年前に失った手ではない方(義手はフェイク)で三好の遺体の目を閉じます。原作にはないアニメならではの演出に鳥肌が立ちました。
開いていた目を閉じるという、スパイにはそぐわない証拠を残してしまう危険な行為。死者への礼を尽くしただけではなく、そこに完全無欠であった結城中佐の人間らしさ、自分が育てた機関員への追悼の意を感じたのはきっと私だけではないはずです。
目を開けたままだったスパイ真木はその瞳を閉じた瞬間に任務を終え、ただただ安らかに永眠する三好の亡き骸となったのでしょう。
三好の亡き骸が収められた柩の中には赤い薔薇と白い薔薇、そして白い百合が添えられていました。3つの花の花言葉は、情熱、美、決して滅びることのない愛、模範的、心からの尊敬、純潔、威厳。
スパイをまっとうしどこか満足げな表情で永眠した三好へのアニメスタッフからの渾身の敬愛を感じました。
降りしきる雪がドイツの厳しい冬と悲哀を感じさせてくれ、あるいは一面に積もってすべてを覆い隠す雪の描写が、三好の暗躍を結城中佐がさらに隠ぺいし見えなくしたことと重なって見えて、IGさんの本気を感じた11話でした。すごく満足できました。
11話放送直後に公式サイトの時系列が更新されたのも確信犯的でニヤリ。やはり12話は時系列的に11話の前。ということは最終回12話で三好が出てきても何らおかしくありません。
12話はちょうど1話2話のジョーカーゲームの直後という時間軸になり、12話が最初にも繋がるように描かれるでしょうから「XX」をラストにもってきたのは粋な設定だなと感心します。
1話・2話ではスパイではなく軍人として生きる道を選んだ佐久間回を皮切りに、3話から9話では個々人としてのD機関員の化け物ぶりが描かれ、そんな彼らをまとめる結城中佐回かと思いきやけむに巻かれた10話。
からの11話では、化け物であるD機関員のスパイとしての死にざまと生きざまを結城中佐の過去とからめて鮮やかにあぶり出し、最終回12話にてスパイとしては生きられなかったD機関員の男を描くというこの1クールの構成がお見事!
放送前から面白そうなアニメだなとは思っていましたが、まさかこんなにジョーカーゲームにはまるとは思ってもみませんでした。最初の頃キャラクターの顔と名前が一致しないとか言ってたのが嘘のようです。
4月からはじまった春アニメの中でも原作を含めて一押しの大好きな作品になりました。ラスト12話の「XXダブルクロス」の小田切回も楽しみです。
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