男同士の友人関係という我々の世界での永遠のテーマをまっこうからぶつけてきたかと思いきや、思った以上に淡々と進むストーリー。
人の感情、特に恋愛感情とは一筋縄ではいかないものだという複雑怪奇さを感じさせるも、決してねっとりはしていない。会話とモノローグの噛み合わせがなんとも陰鬱ながらなぜか心地よい、不思議な歩田川ワールドです。
誌的というほどでもなく、かといって説明的でもなく、キャラクターの会話にまったく無駄がないように感じますが、これは歩田川先生の計算なのか感性なのか。
表題作の「友人関係」のほかに3つ、兄弟、幼馴染み、社会人カップルの短編が収録されています。以下「友人関係」のネタバレ感想です。
友人関係
毎回誰かにふられる度に優しく慰めてくれる友人・和久井(攻)を持つ相原(受)は、学生のころから社会人になった今もなんだかんだと友人同士。
相原がふられて傷心の時に流されるままなんとなく体の関係を持つも、和久井は相原にとって初恋の人で中学の頃にふられた人でもあります。
和久井の軽口に胸中複雑ながら、自分の気持ちも和久井の気持ちも推し測りかねている状態の相原。
かつて相原が好きになったゲイの男たちは皆和久井にもっていかれてしまうという過去の数々に、相原も和久井がわざとそうしているのではないかと怖ろしくもあり、一方で和久井の束縛を快く感じてもいました。
「どうせ誰かとうまくいきそうになっても俺を思い出すぞ」
和久井の殺し文句を相原が冷静に受け入れた時ようやく恋人になれた2人ですが、マイルドな和久井の笑顔に隠された独占欲や執着心に、まだこの男には何かあるな…と思わせられます。
だって駅のホームで相原と話してるとき、月明かりをバックに満面の笑みを浮かべた和久井の頭にツノが生えてるんですよ!?こやつ、絶対まだ闇を抱えているに違いない。
クリスマスツリーだの七夕の笹だのと相原がわりと単純で可愛げがあるというところが救いになっていますが、和久井の本性についてもうちょっと知りたいなと思いました。
この男、まだ何かあるはずですからね。相原の前ではポーカーフェイスと柔和な笑顔で巧妙に隠していますが、セリフの端々に含みを持たせているというか、もっとドロドロした何かがありそう。
そういう意味で、正式にくっついた後の和久井と相原の行く末をまた追いかけてみたいです。
あと、テーブルを囲ったキャラの2ショットを真上から描くシーンがちょくちょくあって、珍しいなーとじっと見てしまいました。まるい頭とか、ちょっとかわいい。
斜め上からとか斜め下からのアングルはよく見かけますが、真上からってあまり見かけないなと思って。こういうところは作家さんのセンスでしょうか。
双子の頭
ギリギリ一線を越えていないガチ兄弟ものです。
親の死後「兄弟仲良く」を守り2人暮らしの兄と弟。兄は弟が自分に執着するのを怖いと感じながらも、心のどこかで嬉しいとも感じています。
突き放すのが兄である自分の義務だと思うも、なかなか突き放せない兄と、決して離れるつもりのない弟。
兄が自分を手放すはずがないと確信している弟に対し、兄の感情は兄弟愛なのか、あるいはそれ以外のものなのか。
1話のみで弟が出て行ったところで終わっていますが、この後の兄弟の愛憎劇を見たいような見たくないような…。
余韻の残る短編でした。
ひつじ雲
子どもの頃の幼馴染の仲良しグループの一員だった颯太と蓮。2人は大学で再会するも、颯太は内心嬉しくはない様子でうっとうしげ。
実は颯太はゲイである自覚と共に、どんどん男臭くなっていく仲良しグループの居心地が悪くなり、高校でようやく全員と縁が切れてホッとしていたのでした。
颯太にとって蓮は距離感が近くて嫌いな存在。なのにまた再会してしまい、ゲイであることも蓮に言い当てられてしまいます。
ところがその蓮も実は颯太のことがずっと好きで、大学で再開したのは偶然ではありませんでした。
結局収まるところに収まった幼馴染ですが「仲良しグループがしんどかったのはお前だけじゃないぜ」という蓮のセリフにドキッとさせられたり。
学生の頃の女同士のグループにいろいろあるのはもう定番で、皆なにかしら良い思い出も悪い思い出も持ち合わせていると思いますが、男の子同士にもいろいろあるんだなあ…。
今はもうまったく連絡を取らなくなった小中学校の頃の同じグループだった子のことを思い出して、今どうしているのかなとぼんやり考えてしまいました。
ひつじ雲の例えなんかは素敵で、迷える子羊が気の合う誰かと出会えるのをひっそりと祈りたくなるお話です。
0.8
デザイン会社に勤める洋平と高校の美術講師の千喜。同じ高校の美術部出身の2人は学生時代からの長いつき合いになるカップルです。
最近、マンネリなのかどうして一緒にいるのかもわからなくなりつつある千喜は、絵を描くことをやめていました。洋平の引っ越しを機に別れようと思っていた千喜。
なのに新居で壁に手形を押して遊ぶうち、また絵を描く気にさせられた千喜。
自分の才能の限界や、大人になるともう褒められなくなること、芸術に対するコンプレックス。千喜のすべてを飲み込んでまた前に進もうと背中を押せる洋平がかっこいいなあと素直に思えました。
ところで、全体重の中で手首から先が0.8%の重さだそうで、意外と軽いんですね。ちょっとびっくりです。こういうところに目を付けてモチーフにできる歩田川先生もまた芸術家ということなのでしょう。
感想まとめ
1冊を通して全体のイメージはモノトーン。だけど白と黒に分けられないグレーゾーンの関係性や人の感情そのものを扱った奥の深い作品でした。
また、時々キャラが小さく影絵のようになるんですが、いわゆるちびキャラとはちょっと違っていて、これがけっこう世界観にマッチしていて地味に好きです。
カラーで見たいなと思う作家さんは数あれど、こんなにもモノトーンのままがいいと思う作家さんというのもまた貴重な存在だなと思いました。
モノトーンの世界を味わってみたい人、キャラクターの会話を紐解いて楽しんでみたい人、正座やひつじ雲などモチーフのある作品が好きな人におすすめです。
歩田川 和果先生のその他BLコミックス。
歩田川和果先生のBLコミックスはその他各電子書籍サイトでも発売されています。ご利用の状況に合わせてどうぞ。