闘病中だということは依然から知っていてブログもちょくちょく覗いていましたが、1冊に本としてまとまったので改めて手に取りました。
藤河るり先生は元々BL漫画を読んで知っていましたが、東京で一人暮らしをされている同じ独身女性ということで今回のことは他人事とは思えず食い入るように読みました。
かわいらしいシカのイラストのおかげで深刻な内容も少しマイルドになり、なによりも藤河先生ご自身のお人柄がにじみ出るようなエピソードの数々に何度も目頭が熱くなりました。
肩に力が入らない落ち着いた闘病エッセイ、なんて軽々しい言葉で説明するのもおこがましいですが、老若男女問わずたくさんの人に読んでほしいと思います。
私は電子書籍で読みましたが、帰宅途中にある駅近の大型本屋さんにもエッセーコーナーにたくさん置いてありましたのでぜひ。重版もかかったそうですよ。
大げさではなく、ふと自分の人生についても考えさせられるような静かに心に響くコミックエッセイです。
元気になるシカ!アラフォーひとり暮らし、告知されました 感想
病気のリアルとひとりの不安
36歳という若さで卵巣がんと診断され、卵巣・子宮全摘手術そして抗がん剤治療をされた藤河るり先生。
海外旅行へ行く途中の空港で救急車で運ばれ癌が発覚したそうです。すごくリアルだなと思ったのが、ひとりだと簡単に意識を失えないというところ。
声をかけてくれる人に苦しみながらも必死で状況を伝えないといけないし、自分がしっかりしないといけないという精神力だけでなんとか持ちこたえないといけません。
診察後にヨロヨロの身体でも荷物やパスポートを取りに一人で空港まで行かなきゃいけないというのも、実際はすごく大変だっただろうなと心が痛みます。
年齢的には藤河先生のほうがお姉さんですが、私も同じく地元を離れて一人暮らしの独身生活。自分の将来のことも不安で気がかりです。
先生が「ひとり」であることでぶつかるいろんな不安や葛藤を、闘病中に1つ1つ静かに前向きに考えたり受け止めたりしている姿に、私もとても考えさせられたし励まされました。
お友達や家族の支え
ちょっとドキッとするようなことをズバッと言ってくれる魔女さんや、病気のことをきちんと重く受け止めてくれる人など、藤河先生のまわりのお友達も素敵な人ばかりでした。
きっと今までの良好な人間関係や先生のお人柄があってこそなのでしょう。私はこういう友達がいるかなあと思わず遠い目になってしまいました。
気を遣ってくれる友達ももちろんありがたいですが、そればかりだとこちらも気を遣ってしまって結局はお互いに疲れてしまいます。
一般的には言いにくいであろうことも、魔女さんのようにスパーンと言ってもらうくらいのほうが後に引かずに気が楽になる時もありますよね。
ちょっと面白いお父さんやお母さんなどご家族もナイスなキャラで、娘の一大事に温泉に行ったりする天然なお父さんが保険のことではきっちりと動いてくれたりと頼りになるパパになってくれてとても素敵でした。
温かい家族ぶりがくすっと笑えて微笑ましかったです。私も少ないけれど友達や家族を大切にしたいなと思いました。
仲良しのBL作家さんたち
先生のBL作家仲間(お友達)も出てきました。SHOOWA先生とは長電話したり遊んだりととても仲良しのお友達のようで、ちょくちょく「しょわさん」というお名前で出てきます。
しょわ先生との電話で「もう私子ども産めないんだなあ」とぽつり。初めて泣けたとありましたが私も一緒にボロボロ泣いてしてしまいました。
BL界のイチローこと山田ユギ先生もお名前がありました。ユギ先生もご病気をされた後に復帰されたので、励ましはとても心強かったのではないでしょうか。憧れの人に言葉をかけてもらえるだけでも気力が湧いてくるものです。
作家さん同士のこういう繋がりって私たちにはなかなか分からないのでちょっと嬉しい発見でした。
普段はなんとな~く、発売の告知をリツイートされていたり、コミックスの帯に推薦文を描かれていたりするとお友達・お知り合いなのかなあ?とか想像する程度ですしね。
ところで先生がシカとして描かれていますが、このシカが妙にかわいくて愛らしくてじっと見つめたくなるのはなぜかを考えてみました。(ひま人)
そこで発見。瞳も大きいんですが、黒目がすっごく大きいんですよ。黒目がちな子ってかわいいですよね。ちっちゃい子とか特に。
このシカのかわいさの秘密は黒目だ!とひとりで納得&満足した夜でした。(実際は先生の作画がお上手だからです)
お隣のAさんとのこと
病室でお隣だったAさん。患者同士の付き合いは病状も性格違うことからいろいろと難しい。とはいえ普通に知り合いとし手交流してきた藤河先生。
あんなに前向きだったAさんが治療をやめることになり(もう治らないということ)、藤河先生が会いに行った時のこと。そしてその後のAさんの旦那さんとのやりとり。
Aさんが本当にどう思っていたのかはもう分かりませんが、きっとAさんのお人柄なら旦那さんの言う通りだったのだろうなと思います。とてもいい人で、藤河先生同様に周囲から愛される人だったに違いありません。
患者同士の付き合いは難しい。だけど患者だからこそわかることもある。私たちは分かりあえる部分を探して他人と共存しながら生きていくべきなのかもしれません。
元気になるシカ!感想まとめ
治療過程における心境の変化や病気との向き合い方など、具体的で丁寧で役に立ちそうな情報もあり非常に勉強になりました。
すべて藤河先生ご自身の飾らない言葉で描かれているのが分かりやすくて読みやすかったです。
簡素な言葉の中に見え隠れする揺れる気持ち。前向きだけではない気持ちも汲みとって受け止めながら、それでも前を向いて生きていこうとする等身大の姿。
こういう闘病記って描くほうは細心の注意を払って描いておられると思うんです。描きたくても描くのを控えるような内容もあったのではないでしょうか。
実際に今も闘病中の人に読まれる可能性もあり、医療関係者や看病する家族などいろんな立場の人に読まれる可能性があります。
それだけに言葉選びのひとつひとつや治療の進め方、その経過などその他もろもろにとても気を配って描かれたのではないかなと思います。
闘病中の方に失礼のないように、何より読者がつらくて本を閉じてしまわないように。ハイテンションすぎず沈みすぎず、楽観的すぎず悲観的すぎず。
実に真摯で落ち着きのある淡々とした描かれ方で、かわいらしいシカの絵柄にも救われながらとてもバランスの良いエッセイでした。
本当は治療の経過で、漫画には描けないような辛いこともたくさんあったことでしょう。たったひとことで、ひとコマで片づけられないような苦しみもあったに違いありません。
しかし無理をしない前向きさで病気と向き合う藤河先生のその真摯な姿勢には大きく胸を打たれました。今もこうしてブログを描いていると思い出してうるうるしてしまいます。
30代40代の人生の先輩女性たちが「年齢と共にどんどん涙腺が弱くなる」と言うのをよく耳にしますが、私は20歳を超えてからずっと涙腺が弱くなってしまっています。
社会人になってからの方がテレビのいいシーンとかいいセリフとかのちょっとしたことでうるっときたり。(動物とか子どもとかが頑張る姿なんかにも弱い)
私も今を大事にしながら生きていこう、ずっと一人暮らしのままかもしれないけれど老後の不安ばかりで今を楽しめないなんてもったいない。
とても前向きな気持ちにさせてもらいました。私にできることは新刊を発売されたら早めに買うくらいですが、次はBL漫画で藤河先生の作品にお会いしたいです。
同日配信になった電子限定の腐女子エッセイもおもしろかったです。こちらは1コインなのでお手軽なのもポイントです。
藤河るり先生のBLコミックス
藤河るり先生のBLコミックスはその他各電子書籍サイトでも発売されています。ご利用の状況に合わせてどうぞ。
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