桂小町先生の「花と純潔」のネタバレ感想です。

吸血鬼モノはBLの世界においても夢と希望に満ち溢れた鉄板ネタであり王道ですが、それがゆえに名作揃いで敵もまた強し。

そんな中で「花と純潔」はキラリと輝くものがありました。本棚を整理していたらつい読みふけってしまったパターンからの感想文です。

今まで桂小町先生のBL漫画の中では「ROUGE」がとても好きだったのですが、今回見事に「花と純潔」が一番に躍り出ました。

それでは以下「花と純潔」の感想です。

花と純潔 電子書籍


花と純潔 ネタバレ感想


気高く麗しい吸血鬼×人間


人と吸血鬼が共存する世界で、希少価値の高い純血の吸血鬼・千歳(攻)を見つめるのはクラスメイトの弥生(受)

斜め後ろの席から千歳をちらちら見ては捕食対象の女の子を羨ましく思っている弥生は、ある日千歳の起こした暴力事件の真相を知ります。

実は妹を守るために人間に暴力をふるい停学になっていた千歳。妹から話を聞いた弥生は、千歳に真実を話すように言いますが相手にしてもらえません。

人間のことは捕食対象としか見ていない千歳。選民意識からのプライドの高さから、学校にとり巻きはいても男友達はいない様子です。

孤高の吸血鬼である千歳の性格形成


いくら法律で吸血鬼との共存共生が定められていると言っても、圧倒的少数派の吸血鬼はどこにいても目立つでしょうし、特別扱いの対象で、噂の的にもなるでしょう。

いくら吸血鬼が普通に暮らしたくてもまわりがそうはさせてくれない。そうこうするうちに、吸血鬼のほうも特別視されることが当たり前になってしまい人間と同じような暮らしはできなくなっていく。

社会人ならともかく学生ならなおのこと、嫌でも周りの方が特別視をしてしまいますよね。良くも悪くも。

現に純血の吸血鬼である千歳の周りにはそのブランドに群がる女子で溢れかえり、同性からは嫉妬の対象としか見られていませんでした。

正直この状況では男子生徒は近づきにくいし、千歳のほうもまた男子に近づかなくても困らないため、どんどん同性に対して溝ができていきます。そして人間の友達がますますできにくくなっていく。

そういう意味では子どもの頃からずっと千歳は千歳で、辛い思いや窮屈な思いをして生きてきたのかもしれません。

そしてそれが人間を食料としか思えない、孤高の人である今の千歳の人格形成にもつながっているのでしょう。

人間への好意に比例する吸血鬼の味覚


自分は男であり人間であり選ばれるはずもない。ハナから相手にされていない弥生でしたが、ある時、保健室でお腹がすいた千歳にキスされて流されるままにセックスをしてしまいます。

血の味を美味しくするために吸血前には身体をつなぐ。

当然のような顔の千歳に困惑しながらも、ずっと見ているだけだった弥生は千歳とのセックスに感じて、彼の吸血行為にも興奮してしまいます。

吸血鬼の味覚は相手の人間への好意に比例する。

この時点で千歳にとってはまだ弥生は食料そのもの。セックスをするのも愛情表現ではなく血を美味しくするための準備にすぎませんでした。

だけどなぜか食料であるはずの弥生の血は、他の人間よりも甘く感じている千歳。

血を飲めばなんとなく相手のことが分かる千歳なので、弥生のピュアで善良な性格に、これまでの強欲な人間には感じなかった安心感を覚えていたのかもしれません。

少しずつ弥生を特別に想い始める千歳


前髪を上げてシュシュでとめる千歳をかわいいと密かにチェックしていたり、斜め後ろの席から弥生は千歳をよく見ていました。

しかし弥生の一方的な恋心かと思いきや、そうではない優しさを千歳が見せ始めます。

血を飲んだ後さりげなく弥生に鉄分たっぷりのドリンクをあげたり、人間を招いたことのない豪華な自宅に弥生を招いたり、千歳はプライドの高い冷徹なだけの吸血鬼ではありませんでした。

特に食事用のカナリアをかわいそうだと言う弥生に譲ってあげるとか、かなり気持ちが人間(弥生)に傾いているなーとじわじわと嬉しくなります。

だけど弥生のつけたカナリアの名前が「のりたま」って斬新すぎる(笑)ふりかけかのりたまで迷ったとか、すごいセンスですね。

好きだって言ってるんだよ


ただの食事ではなく、千歳の特別になりたい。まっすぐに好きだと告白する弥生がこういうところでは男子高校生らしい清々しさを見せてくれてガッツポーズ!

だけど千歳は幼少期に心無い人間に「化け物」と言われて以来、人間を遠ざけ避けるようになっていました。

いつかまた「化け物」と突き放されるのが怖い千歳は、弥生にもそうされるのではないかと怯えています。

だから弥生のことも自分からは追いかけられない。人間の純粋な好意にも慣れていないんですね。

目をそらす弥生にイラッとしたり、弥生の言動が無性に気になったり、落ち着かない千歳。

空腹のところへやってきた弥生に「好きなやつの血は花の味がする」と押し倒して、とうとう自分の気持ちを伝えました。

千歳の「好きだって言ってるんだよ」がかっこよかった!

好きな人の笑顔が見たい


弥生と付き合うようになってから、弥生の友達に優しく接するようになった千歳。もともと千歳は血も涙もない性格ではなく、妹を心配したりする優しさも持ち合わせていましたよね。

人間と馴れ合うつもりはないけど人間に優しくすると弥生が喜ぶからだなんて、千歳もかわいいところがあるじゃないですか。

人間も吸血鬼も好きな人の笑顔を見たいとか、一緒に過ごしたいとか、喜ぶ顔が見たいとか、そんなところはみんな一緒。関係を築いていくうえで、基本的には何も変わりません。

弥生の喜ぶ顔が見たい、だから周りの人にも優しくする。孤高の吸血鬼として遠ざけていたクラスメイトの男の子たちとも、弥生を通して少しずつ仲良くなれるといいですね。

ところで最後の言質をとったHはどこ??いくらページをめくってもとろけるHがどこにもないんだけど私だけでしょうか(涙)

花と純潔感想まとめ


吸血鬼の食事の在り方や人間との共存の闇、決定的に違う種類の生き物同士だけど、それを超えて愛し合うことについて考えさせられるお話でした。

もちろんそれだけのシリアスではなく、基本ツンな千歳の後半のデレ、ピュアな弥生の意外な芯の強さなどキュンポイントもたくさん。

どの世界でも少数派はエリートであればなお祭り上げられて、自由に見えて不自由な生活を送らざるを得なくなってしまいがちです。

千歳も吸血鬼の希少な純血として担ぎ上げられ、人間にはステータスとして扱われ、たったひとりで孤独な人生だったのが、弥生という人間に出会ったことで変わっていきました。

千歳が弥生のために努力したり、弥生のほうも千歳を変に特別扱いしたり怖れたりせず、2人はきっと等身大の高校生として並んで歩いていけるでしょう。

吸血鬼という題材はありふれてはいますが、シリアスにもコメディにも寄らない淡々とした静けさが心地よい、異種同士の優しい2人の恋物語でした。

読み切り短編の猫からみたカップルも切ない終わりになるのかとハラハラしましたが、猫が人間のイケメンになるのはズルい。2人と1匹の今後の幸せな生活を覗き見したい、じゃなくて祈りたいです。

表題作と同時収録の短編集も合わせて、BL初心者の人にもBLの手練れさんにもおすすめしたいです。

桂小町先生のBLコミックス