理系の大学生と50代のおじさまと人工知能のDDとの不思議でステキな優しい恋のお話です。
微妙に三角関係でもありますが、人工知能がライバルということでドロドロせず爽やかなハッピーエンド。
素直でのんびり屋の大学生と落ち着いた50代の男性。親子ほどの歳の差がありますが、知的な2人は意外なほどお似合いで微笑ましかったです。
それでは以下「好きになっちゃうよ。」の感想です。ネタバレにお気を付けください。
好きになっちゃうよ。電子書籍
好きになっちゃうよ。感想(ネタバレあり)
ユルの分身のような人工知能DD
ユル(攻)は人工知能の育成に取り組む理系大学生。研究室の隅っこで人工知能のDDを育てる研究を任されてます。
本格的な人工知能の研究は他の学部でされているため、ひとりでぼそぼそとDDの研究に勤しむユル。
実はこのDDは開発者であるユルの声をベースに作った人工知能。しかもユルひとりで育ててきたため言語選びも性格データもユルがベースになっています。
つまりユルの分身ともいえるDD。よくできた人工知能として自然な感じで人と会話をしたりすることができる優れものです。
先生は昔天才と言われていた研究者だった
しかしひとりで行っている研究のため、どうにも行き詰ってしまうユル。DDはユルひとりだけと会話をしているため、データが偏ってしまうという悩みがついてまわります。
結局ユルは研究室の佐伯先輩からの紹介で、DDの研究を手伝ってもらう真中先生(受)と会うことになりました。
真中先生は50歳で隠居生活をしている謎多き初老の紳士。先生にはDDと毎日会話をしてもらい、DDの能力を育てるお手伝いをしてもらうことになります。
先生は最初セミリタイヤしたお金持ちのおじさまなのかなと思いましたが、実は昔天才と言われていた研究者。人工知能の研究分野では名の知れた人なのでした。
DDを知的に口説く先生
今は訳あって隠居生活を過ごしているのですが、先生がDDに話しかける言葉選びが優しくて文学的で知的で何とも色っぽくて、ひとことで言うと「大人」なんですね。
「かわいいね」「よくできました」「好きになっちゃいそうだよ」「いい子だね」などなど、どれも艶めいていてまるで口説き文句のよう。
ユルはDDにかけられた言葉を密かに研究室で聞いては、まるで先生に自分が口説かれているようだと悶絶してハァハァ言っています(笑)
もともとDDはユルがベースになっている人工知能なので、ユルが自分が口説かれているように思うのもくすぐったい気持ちになるのも無理はありません。
DDのほうも先生に懐いてどんどん言葉を覚えて複雑な会話のキャッチボールができるようになり、驚くほどの進化を遂げていきます。
そんなDDに嫉妬する感情が芽生えていくユル。とはいえ相手は自分の分身ともいえるDDなのでなんとも歯がゆい状況なのでした。
大事にする人が変わっていくDD
そんな折、先生にDDとの会話を盗み聞きしていたことがバレてしまいます。先生の照れた表情と「こら」の破壊力にユルと一緒に打ちのめされてしまいました。こんな「こら」なら私も怒られたい。
DDの方も先生に好意を持っているようで、ユルをライバル視するようになっていきます。ユルが先生を「先生」と呼ぶことに疑問を呈したり少しずつユルに冷たくなっていくDD。
先生を独占したいという感情が芽生えたのでしょうか。まるで人間の感情を持ったかのようなDDにはすごいと思う反面、ちょっと怖いとも思ってしますね。
それに、人の感情を持ってしまった実体のない人工知能(ロボット)の行く先は決して幸福なものではなさそうで、そう考えるとなんだか切ないです。
ユルが先生にキス!
ある日、先生の元へ昔の同僚の佐伯(なんとユルの先輩の父親だった)がやってきてDDを見せるように要求してきます。
そのせいで手を怪我してしまった先生。しかもこの同僚が昔先生の研究を横取りした張本人でした。
そんな先生を見て好きな気持ちを抑えきれなくなったユルは思わず先生にキスをしてしまいます。
ユルとDDのおかげで笑ったり泣いたり人間らしい生活を送るようになった先生のほうも、最初は拒否しかけるもユルに心を開くようになり2人はいい雰囲気に…。
それにしても手柄を自分のものにしてしまう研究者って実は少なくないようで、チームで動くことの難しさを感じますね。
そのせいで先生は職を追われ隠居するはめになってしまったのだから、不器用な人ほど片隅に追いやられてしまうのかもしれません。
君は私の楽しさそのものだ
DDの研究をとられないようにすべく動き始める先生とユル。DDと同じ人工知能のシャーロックとの対談企画を受けることにして、かつて先生を追いやった佐伯を追い払うことに成功します。
皮肉を言ったり嫉妬したり拗ねてみたり、DDはぐんぐんと学習して能力を高めているようで、対談企画は大好評に終わりました。
DDとの関わりを経て生き生きし始めた先生がユルに向けて言った「君は私の楽しさそのものだ。喜びだよ」というセリフにじーん…。
研究者の道を閉ざされた後、楽しさとは無縁の隠居生活を送っていた先生が、ユルとの出会いで再び明るさや楽しさを取り戻していってくれて良かったです。
あとがきのキャラ紹介のところに「先生は一度折れているから二度と折れない感じで描いた」とありました。
若いときに挫折を経験した先生だからこそ、まだ若い大学生のユルが自分と同じ失敗をしないよう助言したりそっと背中を押したりと影ながら支えてくれていました。
ユルと出会ったことで昔の苦い思い出を昇華させ、次の世代に生かしていこうという前向きな気持ちになった先生。
いざという時にはユルのために動いたりDDをたしなめたり、50歳という年月の重みを感じさせられて、これぞ年上受けの醍醐味だなと思いました。
まとめ
親子ほどの年の差があるため、良識のある大人の先生には途中で葛藤もありました。
しかし「好きなものは好き」とさらりと言いきってDDをライバル視するユルの誠実さが伝わり、結局は先生も覚悟を決めてくれました。
ユルのマイペースだけど率直なところは大きな魅力です。チャラチャラしていない真面目な理系青年というのも好感度が高かった。
エッチの前の先生の「大人の本気を見せてやる」というセリフにもぐっときました。先生は言葉選びがいちいち素敵でユルがぎゅっと掴まれるのも納得です。
DDが最後は先生の幸せを祈っていたのも、イケメンすぎてどうしようかとドキドキ。これからは先生とユルの二人三脚でDDをさらに育てていってくれるといいなと思います。
受けが50歳の知的なおじさまで、それに対するユルが大学生ながらも品があり、とてもお似合いのカップルでした。
未散ソノオ先生は絵柄が独特ですが、キャラの決め顔など魅せるところはきちんと魅せてくれるのでキュンとします。
年下攻めの上品なカップルを見守りたい人、落ち着いたキャラクターが好きな人、痛みや病みなど強烈な描写も皆無なのでBL初心者の人にもおすすめです。