はらだ先生のやたももが完結しました。はらだ作品の中では一番といっていいほど甘めで読みやすい作品です。
2巻と3巻では1巻では見られなかったモモの本心が見えてきて、やたちゃんはいっそうオカンっぷりを発揮し且つ男前度が上がりました。
モモのそばいやたちゃんがいてくれて本当に良かった。モモの涙には何度もつられてウルウルしてしまいました。
モモの母親問題にお隣りで暮らす新キャラが加わって大団円の全3巻です。須田さんも彼なりの幸せを見つけたようで安心しました。
それでは以下「やたもも」2巻&3巻の感想です。ネタバレにお気を付けください。
やたもも2巻3巻 電子書籍
やたもも2巻・3巻 感想 ネタバレあり
やたちゃんの絶倫ぶりは健在だった
2巻冒頭、挿れたまま寝ていたやたちゃんに抗議するモモ。寝たふりをして誤魔化そうとしてごまかしきれずにさらに興奮するやたちゃんが楽しいラブラブな2人です。
相変わらず絶倫の八田とモモの関係はうまくいっているようで、夜ももちろん激しく愛し合い、とうとうお隣に暮らしている栗田から苦情が入りました。
新キャラの栗田は今は小説家をめざしてWEBで小説を書いていて、八田はその小説を気に入って夢中に。その姿を見たモモは複雑な気持ちになってしまいます。
八田ちゃんを誰かにとられるかもしれない。自分だけの八田のはずなのに他の誰かと仲良くしているのがひっかかるモモ。初めて感じる感情に戸惑い気味のももの姿は新鮮です。
貞操観がゆるゆるでダメな大人のモモも、こうやっていろんな感情を知っていくんですね。
そんな折、栗田にふざけてちょっかいを出すモモを見た八田ちゃんが珍しくガチ切れします。がっつく八田とそれを受け入れるモモ。八田は怒っていても結局愛があるから良いエロになりますね。
モモをお仕置きするように激しく抱く八田は八田で、自分ばかりが焼きもちを焼いていると思っている様子です。
栗田とも知人以上友人未満のような関係になり、ラブラブっぷりは健在のモモ&八田。しかしそこへ、モモを訪ねてモモの母親がやってきたころから嵐が吹き始めます。
巻き込まれ体質の栗田くん
須田に八田家の住所を聞きやってきたモモの母親は「指輪を返してほしい」とだけ言って連絡先を八田に渡しました。
モモの母親はモモに超そっくりです。っていうかDNAとしては逆で、モモが母親に似ているんですね。そのまんまモモを女性にした感じの美人の母親です。
母親の言う指輪には全く覚えのないモモ。八田は無理して母親に会わなくていいと言ってくれますが、おもしろそうだから会うとモモは母親と会うことになりました。
しかも八田が同席するのはともかく栗田までも一緒です。モモに同席するように頼まれた栗田ですが、巻き込まれ体質が不憫です。
案の定、母親がやってきてもシーンとした空気にいたたまれなくなる栗田。ウィットにとんだトークを!とか必死に考えても言葉にならずうつむくばかり。
この中で一番の常識人というか普通の感覚を持っているのが栗田なんじゃないかな。それに八田とモモの関係を知っても態度を変えたりせず、気負いなく付き合っていける栗田はとてもいい子だなと思いました。
もちろんモモの色んな意味でゆるーい性格や八田ちゃんのオカンっぷりを見てのことなのでしょうが、ちゃんと栗田が「人」そのものを見ているところは、人を描く小説家としても必要な素養なのかもしれません。
あんたなんか生まれてこなきゃよかった
4人になり凍りつく雰囲気を察したデキる男・八田は自然と場を和ませようとします。しかしせっかく和みかけた空気をモモがぶち壊します。
「彼氏を全部息子に寝取られたからって見苦しい」などと言うモモの態度に、母親はクズ親の常套句をつぶやきました。
あんたなんか生まれてこなきゃよかった。
実は母親はレイプ被害に遭い、そのとき生んだ子がモモだったのでした。そんな話を聞いてもモモはけろっとした態度を崩しません。
モモという名前は母親が働いていたお店で使っていた源氏名。それを今モモが名乗っているのは母親を求める気持ちからでしょうか。そう考えると切なくて哀しくなってきますね。。。
本当は愛されたかったモモの号泣
帰宅しても相変わらずへらへらした表情のままのモモ。しかし八田はそんなモモにそっと寄り添ってくれました。
八田に優しくされ、張りつめていた気持ちがゆるんだモモはようやく大粒の涙を流します。
モモが子どもの頃、夜の仕事をしていて帰宅も遅かったけれど優しかった母親。ある日、母親の彼氏に金をもらう代わりにイタズラをされ、モモは子どもながらにそれを受け入れてしまいます。
母親にバレ、挙句彼氏が連れてきた仲間に複数でいたずらされていても母親に知らんぷりをされてしまったモモ。そこから関係はどんどん険悪になり修復不可能になってしまったのでした。
母親の口から出生の秘密を聞いてしまい、憎まれるべきは自分だったと自嘲気味に笑うモモ。だけど八田はそんなモモを抱きしめて「絶対にひとりにしない」と包み込んでくれました。
八田のあったかい腕の中で大泣きしながら気持ちを吐き出すモモが切なくて、やっと本音を吐き出せたことに安堵しました。
モモだって本当は知らない男と寝るなんて嫌だったんですよね。人の物差しで測られてかわいそうだと同情されるのも嫌だった。
だけどそれしか生きる術を持たなかった。生きるためにそうせざるをえなくて、そのうち感覚がマヒしてきて自分の本当の気持ちすら分からなくなってしまっていたのでした。
本当は甘えたい。泣きたい。優しくされたい。愛されたい。
本音を吐露して手を繋いで眠る2人の姿にじーん。それをこっそり隣の部屋で盗み聞きしていた栗田くんが一緒に泣いているのも何だか感動しました。
「何かしてあげたいのに無力だ」と思っている栗田のその気持ちだけで十分。隣からの騒音には今日だけは目をつぶってあげてほしいです。
栗田くんがファインプレー
しばらくして栗田のバイト先の書店にモモの母親が偶然やってきます。買っていったのはすべて「和解」に関する書籍ばかり。そんな母親を放っておけず栗田は思わず声をかけました。
モモのいるところではすべてを話すことはできないだろうと気を利かせた栗田は、改めて栗田と八田の2人にモモの事を話す場所を設けます。
そしてその時こっそりと母親の声を録音していた栗田がなかなかの策士でした。録音を聞いたモモは何を想ったのでしょう。
モモの母親は16歳のとき被害に遭い、恥ずかしくて恐くて誰にも言えないまま家を追い出されたったひとりでモモを生み育てることになりました。
しかし「犯罪者の子どもをどうして自分が育てないといけないのか」と思う気持ちが抑えきれず、結果モモを見捨ててしまいます。
今は外国人と結婚して幸せに暮らしているけれど、自分がかつて捨てた子は今どうしているのかとモヤモヤしていたところで須藤に会い行方を探り当てたのでした。
自分の幸せのために会って過去を清算したい。母親の身勝手なわがままにイラつく八田の気持ちはすごくよく分かります。
どんな事情があっても子どもを育てるのは親の責任であり見捨てるなんて許されないこと。だけど母親にも事情があったのだと知るととても複雑な気持ちになります。
須田の不器用な愛情
当時、モモの母親の店で働いていた須田は、モモが捨てられて母親を探しに会いに来たときからモモとの関係が始まりました。
束縛するのは重たくて嫌だろう。愛しているのに伝えることなくオモチャとして扱い、そんな関係に満足していた須田。
しかしある時突然にモモが出て行ってしまい、結婚相手にも逃げられてしまいました。
須田も不器用すぎるというか、モモへの愛情表現がもう少しストレートだったら違う未来もあったんじゃないでしょうか。
結局は妻子にも逃げられてしまい、当て馬にしてもいいキャラだったのでなんとかなってほしい…と思っていたら、モモの探していた指輪が須田家にあるかもしれないことが判明します。
モモが客をとって上機嫌だったとき、気の迷いで安物の指輪を母親に買ってプレゼントしたことがありました。母親が探しに来たのはこの時の指輪です。
自分で捨ててしまった我が子だけれど、せめてもの繋がりとしてこの指輪を手元に置いておきたい。そういう気持ちがほんのわずかでもあったのかもしれません。
結局、須田家には八田が同行して指輪の行方を尋ねに行くことになりました。
その前日に、ちょっとさびしくなったモモが甘えて八田家に行くのですが「1回だけする」が朝までコースになっていて不覚にも笑ってしまいました。
八田ちゃんの絶倫は2巻でも3巻でも健在です。うそつきぃぃいいい!と絶叫するモモにちょっと同情。モモも体力つけなきゃね。
ぼっちが怖い欲張りおじさんの幸せ
須田家ではなんと、出て行ったはずの奥さんと子ども(男の子)が戻ってきていました。奥さんは相変わらず何事にも動じないタイプの女性のようです。
そして驚くべきことに、モモの指輪は5年も経っているのに須田家にきちんと保管されていました。
須田家の玄関先で指輪を介してあわや須田vs八田になろうかというところでしたが、大きな騒ぎになることなく指輪は手元に戻ってきます。
八田の言動を見た須田の言う通り、モモには八田くらいの世話焼きの方が丁度良かったのだと須田自身もよく分かっていたのでしょう。
ぼっちが怖い欲張りおじさんな須田。子どもをだっこして遠まわしに幸せだと伝える彼が、新しい家族を見つけることができて良かったです。
あんた、幸せなのね。
モモは見つけた指輪を母親に私に行きます。八田はもちろん付き添い。栗田は空気を読んで2人で行かせてくれました。
いくらでも生んだ経緯を楯にしてののしることができたはずなのに、それだけはしなかった母親の事をモモはもう許していたのでしょう。
いつの間にか母親より大きくなっていたモモ。「ひとりじゃない」と八田の存在を指し、幸せだと認めるモモはもう立派な大人の男の表情でした。
そんなモモに通帳と印鑑を用意していた母親もまた、この後自分の人生を今の家族と共に築き上げていくことでしょう。
モモは本当は母親を誰にも取られたくなかった。だから彼氏を寝取ったり指輪をあげたり母親の源氏名を名乗ったりしていたのでした。すべては自分だけを見ていてほしかったから。
そんなモモが今は自分だけを見てくれる人を見つけて、母親との別れを経験したからこそ見えてきた世界。
誰も責めないのは強さだよ。
八田の言う通り、モモの魅力はどんな状況でも人を責めたりしない強さと優しさ、そのしなやかさにあるのでしょう。
あいしてる
母親問題が決着した後のエロは砂を吐くような甘さでいっぱいでした。甘えること愛されることを覚えたモモは、八田に「すき」と涙ながらに伝えます。
母親とのわだかまりが溶けて、八田のおかげで無理に笑って過ごす必要もなくなりつつあることにモモは心底安心したのでしょう。
母親との別れのさびしさの涙でもあり安堵の涙でもあり、八田が一緒にいてくれることへの涙でもあり、その八田をいつか失うかもしれないという不安の涙でもあり。
いろんな気持ちがこみ上げてきたモモの涙が切なくて哀しくて美しくて。八田と抱き合った状態で見せたモモの表情に、2巻3巻を通して一番うるっときてしてしまいました。
翌朝、案の定「愛してる」と一晩中死ぬほど言わされて「エロはいいがラブはきつい」と悶絶しているモモが可愛くて世界一愛しいです。
感想まとめ
1巻が人気で続くことになった作品は途中で失速たり間延びしたりしがちですが「やたもも」はそんなことはなくてあっぱれでした。
栗田くんが出てきた時はこの子が当て馬になるのかなと思いましたが、そう単純な展開にならなかったのはさすがはらだ作品です。
いつもへらへらしている頭のゆるいモモだったけれど、母親が出てきたことで自分の気持ちから逃げずに正面から向き合って、八田ちゃんには本音を言えるようになりました。
これだけでもモモはかなり楽になれたはずです。
さみしい。かまってほしい。愛されたい。誰もが持つ感情をモモも当然持っていて、それを受け止めてくれる懐の深い八田ちゃんが心底いい男でした。
オマケとして栗田くんが小説家としてデビューが決まって、しかも八田とモモを題材にしたBL小説も描いていて笑ってしまいました。騒音で迷惑をかけているしそれくらいは許してあげましょう。
番外編として「よるとあさの歌」の朝一とヨルとモモのからみもあって何だかお得な気分です。モモと喧嘩してしゅんとした大型犬の八田ちゃんもかわいかったです。
はらだ節炸裂のゾッとするような病み系のお話も大好きですが、こんなに甘くて切なくて愛しいお話が描けるのもまたはらだ先生の魅力のひとつだなと思いました。
八田ちゃんがモモにはもったいないくらいのかっこいい絶倫男で愛のあるエロもたくさんあったし、ストーリーもかなり甘々なのでBL初心者の人にもおすすめです。