「ばらの森にいた頃」の感想です。

雲田はるこ先生の新刊BLコミックは珠玉の短編集です。雲田先生は最近ずっと一般漫画での活躍が目立っていたのでまたBL漫画が読めて嬉しいです。

昭和元禄落語心中もいいけどBLも素晴らしい。4つのBL短編集ですがどれもハイレベルで甲乙つけがたい内容でした。どれももうちょっと読みたいような、ここで終わっておくのがベストのような、でもやっぱりもう少し…というさじ加減が絶妙です。

これだけバラエティに富んだものが描けるなんて、やっぱり底力のある作家さんだなと改めて思いました。それでは以下雲田はるこ先生の「ばらの森にいた頃」ネタバレ感想です。

ばらの森にいた頃 電子書籍


ばらの森にいた頃

ばらの森にいた頃

ばらの森にいた頃


ばらの森にいた頃 感想 ネタバレあり


ばらの森にいた頃 感想


食用バラを育てて生活をしている吸血鬼の正宗に引き取られて、子供の頃からずっと一緒に暮らしている人間の恋人の陽。吸血鬼は年を取らないため陽ひとりが歳をとっていく中、正宗は陽を慈しみながら愛情を注いで育てます。

実は陽は前世でも正宗の恋人。正宗は何度も転生する陽を探しては、そのたびに見つけ出してくれていたのでした。

生まれ変わっても人間に転生するとは限らず、虫や動物や草木などいろんなものに転生しては、その都度正宗が陽をさがしあてていました。

大人になるにつれ、永遠の時を生きる正宗と同じ吸血鬼になりたがる陽。吸血鬼が人間の血を全部吸えば、吸われた人間は吸血鬼になれる。

正宗と共にずっと生きていきたいと願う陽はある日、禁止されていた毒バラを食べてしまいます。こうすればもう正宗が陽の血を飲みきって吸血鬼にするしか陽が生きる術はありません。

泣きながら陽の血を吸う正宗は、吸い終えた瞬間に灰となって消えてしまいました。寂しさや虚しさに狂い出すかもしれない。吸血鬼の孤独を味わわせたくない。

そんな想いでいた正宗の気持ちを汲み取って、陽の長い長い旅が始まったのでした。

どうすればよかったのでしょうね。。。正宗が消えてしまうと知らなかったとはいえ、陽の思いつめた気持ちを知れば毒のバラを食べた彼を責めることはできません。

正宗としてももうそろそろ休ませてほしいという本音があったのかもしれない。いつかこうなることを期待していたのかもしれません。

ところで吸血鬼にとってのご馳走が血液と精液という美味しい設定に打ち震えてしまいました。エロティックな2つのシーンに釘づけです。

吸血鬼である正宗自身には血が通っていないからエッチを欲さないというのがまたそそります。人間である陽はさぞや物足りなかったことでしょう。

どうして2人は吸血鬼同士、もしくは人間同士として最初から生まれつかなかったのか。だとしたら同じ時間を生きられたのに。逆らえない運命の残酷さが憎らしくて切なくてもどかしいです。

正宗が消えてしまう直前に思い出していた陽が小さかった頃のキスシーン。大人と子どもがするチュッと軽いキス。このとき正宗はいったいどんな気持ちだったのでしょう。やっと出会えた人間に転生した元恋人が懐かしくて嬉しくて飛び上がりたくなるほど嬉しかったんじゃないかな。

今度は吸血鬼として永遠の命を授かった陽が、転生し続ける正宗を探す番です。きっと長い長い旅路になるでしょう。また人間に転生した正宗がかつての陽と同じことをして、歴史が延々と繰り返されるのかそれとも。。。

余韻の残る切なくて愛おしいお話でした。

モンテカルロの雨 感想


21歳の海外若手俳優×日本の枯れたおじさん俳優のカップルです。

離婚して日本での人気も低迷している阿久津(受)は思いきって海外映画のオファーを受けて出演することに。阿久津はこれを機にまたひとつ俳優として伸びるきっかけにしたいと考えていました。

映画の主演は若手人気俳優のジャン。なぜか映画の脚本ががらりと変わり阿久津はジャンと恋人同士を演じることになります。実はジャンは阿久津の芝居の大ファンで今回のキャスティングはジャンの希望によるものでした。

日本語が話せるジャンが阿久津が芝居をしやすいように気遣ってくれたため、ラブシーンもいい雰囲気で演じることができた2人。

ラストで日本で再会できたのでホッと一安心です。これから国際派の個性派俳優として阿久津は活躍するのかな。ジャンと出会って再び演技への情熱や愛を取り戻し、俳優としてさらに深みが出た阿久津に期待です。

ジャンは日本語が話せるし日本でもブレイクしそうな容姿なので、この2人の未来は明るいと信じたいですね。外国人美青年攻めとおじさま受けの組み合わせが最高の大人のラブストーリーでした。

ヨシキとタクミ 感想


切なくしっとり系だった上記2つのお話とはうって変わって明るく楽しくかわいらしいヤンキー同士の恋バナです。

違う組織のライバルヤンキー同士のヨシキとタクミ。いつもは何かとぶつかりあう2人も裸になる銭湯でだけは妙に素直になってしまいます。

キスをしたり触りっこしたりケンカしながらもなんだかいいムード。海でキャッキャウフフしながらキスしてそのまま合体とかとんだリア充だぜ。

男同士のあれこれになぜか詳しいタクミも、案外あっさり認めて受け入れちゃうヨシキもどっちもかわいいヤンキーなのでした。

なんだこのかわいい生き物は。どちらかがヤンキーではなくどちらもヤンキーというのもいいものですね。

これからもお風呂でイチャイチャし続けてほしいです。

Be here to love me 感想


極度な脚フェチの宮本(攻)は今まで付き合ってきた女性には脚フェチの性癖が理解されず別れてばかり。せめてもの救いは、うらえりと名乗る女性の美脚写真ブログを眺めることでした。

ある日会社の飲み会で酔って終電を逃した宮本は、仕事はできるが今一つ謎の多い後輩町田の家に押しかけます。そこで見たのは大ファンのうらえりブログでよく見るハイヒール。しかもバスルーム全体も見覚えがありました。

宮本の嫌な予感は的中し、実は町田がうらえり本人。生まれつきの女性のような体つきが嫌だった町田でしたが、ブログをはじめてからは吹っ切れてむしろこの身体を楽しんでいました。

うらえりが女性じゃなかったことで宮本は大いに失望しますが、男性である町田の見事な美脚からはどうしても目が離せません。ついつい脱衣所を覗いてしまいます。

すると宮本がこうすることが分かっていた町田は、美脚の写真を撮らせてくれたりヒールで踏んでくれたりと大サービス。結局町田が男だということもどうでもよくなって流れるように関係を持ってしまいました。

ノンケである宮本が、誰にも理解されなかった脚フェチに応えてくれる町田にはまっていく姿がとても自然でした。大どんでん返し(?)として実はそう仕向けたのは町田だったというオチも良かったです。

さりげなく宮本が使う会社のパソコンにうらえりブログをブックマークしておくとかなかなかの知能犯です。こういうちょっと小悪魔な受けは嫌いじゃないな。

ノンケ先輩と後輩は需要と供給でマッチング大成功。オチとエロを含めてトータルでお見事でした。

感想まとめ


4つともそれぞれ違うタイプの完成度の高い1冊に大満足です。長編に比べると短編集はどうしても評価が低めになりがちですが、これは長編に勝るとも劣らない出来栄えなのではないでしょうか。

表題作の「ばらの森にいた頃」もしっとりと切なくて余韻の残る素敵なお話でしたが、私が一番好きなのは最後の「Be here to love me」かな。

脚フェチをこじらせたノンケが酒の勢いで流されて美脚の後輩にハマりこんでいくお話かと思いきや、後輩のほうが意外と策士な小悪魔だったという。

恋の仕掛けって別になくてもいいけどあったほうがやっぱり楽しくて、しかも最後の最後でそれが分かるという漫画の構成の巧さに舌を巻きました。

このオチがなくても成立する作品だと思いますが、このオチによってより際立つ町田のあざとかわいい妖艶さ。たまりません。

どの短編もレベルが高くてあっという間に読み終えてしまいました。表題作だけでも短編なのに長編を読んだような満足度です。

長年BLを嗜んでいるお姉さまにも、最近読み始めたばかりのBL初心者さんにもおすすめできる1冊でした。

雲田はるこ先生のBLコミックス


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