京山あつき先生の新刊BLコミックです。前作の「ヘブンリーホームシック」が好きだったので楽しみにしていました。
「人は生まれつき自然とパートナーが欲しくなるようにプログラムされている」
このプログラムが動作せず好きとセックスが結びつかない低温な後輩と、好きなら身体を求めたくなる先輩。バグを調整しながら数年がかりで近づいた2人のスローテンポでじっくりすすむ恋のお話です。
スリーピング・バグ 電子書籍
スリーピング・バグ 感想 ネタバレあり
IT企業の先輩×後輩
学生の時からバイトとしてIT企業に入っていた潤野(受)は大学卒業後もそのまま同じ会社に入社します。
10代半ばくらいからまわりが彼氏だ彼女だ恋だ愛だと騒いでいることに馴染めず、恋とセックスがあまり結びつかない低温体質の潤野。
職場には昔から仕事ができて尊敬している先輩の本郷(攻)がいましたが、好意は持ってもそこから関係が動くことはありませんでした。
「人は自然とパートナーを求めるようにできている」同僚たちの言葉に潤野はふと自分にはそれがないことに気づきます。これはバグではないか。
バグを見つけて直すのはエンジニアの仕事のひとつです。なのに潤野は自分の抱える本郷への煮え切らない気持ちのバグは持て余し気味でいました。
本郷が別の会社を手伝うことになり離れ離れになると知ると、うっかり本郷の前で泣いてしまったりするも関係の進展はないまま時間だけが過ぎていきます。
好き=セックスではない?
ある日、別会社に移った本郷が多額の借金を背負わされたという噂が駆け巡ります。急いで連絡をとった潤野は本郷に「自作のドローンを預かってほしい」と頼まれました。
本郷が趣味と実益を兼ねて家で作ってかわいがっていたドローン。潤野は本郷の大切にしていたものを渡されて、いてもたってもいられなくなります。
借金のせいかボロボロになっている本郷を見ていられず「500万円で本郷を買う」と思わず口をついてしまう潤野。
本郷との同居が始まると、本郷のほうは潤野と身体の関係を持ちたいと主張します。本郷にとって好き=セックスです。一緒にいたい人とはそういう関係になりたい。
しかし潤野は好きだけどセックスは特にしたいと思いません。「身体が伴わないならそれは憧れだ」本郷に指摘されて潤野は思い悩みます。
尊敬や憧れから恋になるという流れは珍しくありません。でもキスしたいキスされたい・抱きたい抱かれたいという感情がないならそれは単純な憧れどまり。憧れと恋の境界線は難しいところです。
もっと気持ちが結びついたら発動する
本郷のほうがいつから潤野に好意を持っていたのかは不明ですが、ずっと後輩としてかわいがって目をかけてきた潤野が自分のために涙を流したり、困ったときに手を差し伸べたりする健気な姿に心を動かされたのでしょう。
潤野の好意にも薄々気づいていた本郷は、自分の感覚と潤野の感覚のズレに違和感を感じながら過ごすことになってしまいました。
2人で部屋にいると「本郷は実はドローンの方がかわいいと思っているのでは?」と想像してむかつく潤野。思わず本郷に物理的ににくっついてしまいます。
もっと一緒にいてお互いの気持ちが結びついたら身体も深く繋げたいというプログラムが発動するんじゃないか。潤野がそう気づくと急速に2人の距離は縮まっていきます。
気持ちは分かりきっているのに「好き」と伝えたり、スキンシップをとってイチャイチャしたりする2人が不器用ながらほんわかしていてかわいい。なんだか和みます。
ぐちゃぐちゃになりたい
いちゃいちゃ期間が続くと潤野は自然ともっと本郷と繋がりたい、身体ごと溶けてひとつになりたいという欲求が湧き上がってきました。
「おれはめちゃめちゃにされたいし、ぐちゃぐちゃになりたい」
思わず出た本音に本郷のほうもその気になります。でもいきなりつっこんだりせず長い時間をかけてローションで慣らしたり、温かいローションの方がいいだろうと事前準備をする本郷が優しくていい先輩だなとほろり。
もともと本郷のほうは好き=セックスだったので、やっと合体できることでもっとがっついてもいいはず。なのに潤野が痛くないように身体を気遣ったり気持ちがよくなるように努力してくれる姿は思いやりがあって素敵な彼氏そのものでした。
やっと身体を繋ぐとほっとすると同時に寂しさも感じる潤野。その寂しさを埋めるのは時間でしかありません。2人で過ごす時間が増えれば増えるほど溶け合ってもう元には戻れないくらいに混ざり合う。
長い年月を共に過ごして混ざり合いひとつになって満たされるまで、本郷と潤野の恋のプログラムは動きつづけるのでしょう。
プログラムの世界と恋をからめ、人の気持ちをプログラムで説いていくのはとても新鮮で鮮やかでした。
これぞ京山あつき先生というような1度読んだだけでも何度も読んでじっくり堪能したような満足度の高い1冊です。
感想まとめ
仕事中心の淡泊な理系男子だったら実際こんな感じなんじゃないかなというリアル感に、つい先が気になって結ばれたときはホッとしました。
物語半ばあたりで潤野が本郷にスキンシップをとり始めたくらいから、じっくりじわじわ関係が深まっていくのをドキドキしながら見守ってしまいました。
長年連れ添った夫婦がどこか似てくるのは、もう2人が分離できないくらいに混ざり合ってひとつになってしまったから。コーヒーとミルクが混ざり合うと元には戻らないように。
あとがきを読んで、このコーヒーとミルクの例えは秀逸だなあと思いました。共に過ごす長い年月を経て、潤野と本郷もいずれ安定した夫婦のような関係へと変わっていくのでしょう。
その時動いているプログラムはもう恋ではなく愛なのかもしれません。
5年前ならドローンなんて考えもしませんでしたが、新しいものがBLの中で印象的な小道具として描かれていたりするのは興味深かったです。
潤野の会社の同僚や先輩たちも個性があって好きでした。猫耳先輩はただの出落ちのサブキャラじゃなかった!少女漫画みたいな出会いで結婚まで進むとかすごいですね。
パートナーを求めるプログラムは私には動いてるのだろうか?恋愛に限らず人と交ざるとはどういうことなんだろう?そんなことを考えさせられるお話です。
とりあえず今パートナーはいないし、賢くお留守番してくれるかわいいドローンが私もほしいです(笑)
仕事ができる理系男の恋に関心がある人、じっくり丁寧な恋愛物語が好きな人、ストーリー中心なのでBL初心者の人にもおすすめです。