12巻ではあかりさんの恋が急に動き出しかけたいいところで終わっていたため、全国民が続きが気になって仕方なかった待望の13巻です。林田先生と島田さんとの三角関係になるのかならないのか。結論からいうと13巻ではまだ微妙なところではっきりした結論は出ませんでした。
しかし大人の男が2人ともあかりさんを巡って静かに動き出して、あかりさんのほうも恋について考えてみたりと、じれったいようなくすぐったいような甘酸っぱい気持ちでジタバタしたくなりました。
将棋のほうでは零を置き去りにして二海堂が大活躍です。宗谷名人との勝負ではその存在感を見せつけてくれました。零のおごりは読者がみんな考えていたことでもあるのではないでしょうか。
13巻も紙と電子書籍が同時発売だったのが嬉しいです。私は日付が変わってすぐに電子で読みました。それでは以下3月のライオン13巻のネタバレ感想です。
前回12巻の感想はこちら。
3月のライオン12巻 ネタバレ感想
3月のライオン13巻 電子書籍
3月のライオン13巻 感想 ネタバレあり
あかりさんに会いに行く林田先生と島田さん
自宅でくつろぐ林田先生は、遠くに見える花火をあかりさんと一緒に見たいとぼんやり思います。学生の頃から色恋沙汰は苦手で、好きになってもどうしたらいいか分からずはしゃいでふざけて誤魔化し続けてきた林田先生。
でも夏祭りで島田さんと同時にあかりさんを助けた瞬間、もうごまかしている場合ではないことに気づきました。ひとりの女性を巡って自分の真正面にいる男は、同い年のプロ棋士。
林田先生は島田さんのファンで昔から応援してきましたが、まさかその彼とこんな形で対面することになるとは思ってもみませんでした。
自分があかりさんなら誠実で人望もあって将棋が強くて稼ぎもあって中身も大人の島田さんを選ぶだろう。自分で考えていて虚しくなる林田先生ですが、それでもむくりと立ち上がります。
何もしなかったらいつかは誰かにとられてしまう。林田先生は思いきってあかりさんの働く美咲おばさまの銀座のお店に足を運びました。
ところが店の前で動けなくなってしまう林田先生。なぜならここは銀座の高級クラブ。お値段にびびってしまうのは仕方ありません。すると「入らないんですか?」といつの間にか隣に立っていたのはなんと島田さんでした。
こういうときにどうしてか大駒が置かれてしまうのが人生の妙。
恋愛の神様はきっとこの状況を面白がっているに違いありません。
しかし林田先生は思い直します。島田さんだけがひとりでこのお店の扉を開けて新しい物語が始まってしまうよりは、堂々と2人で足を踏み入れることができて良かったと。
2人の男のこの1歩により、あかりさんをめぐる恋のゴングは本格的に鳴ったと考えてよさそうです。
教え子に恋の相談をする林田先生
美咲ママのお店ではあかりさんが2人を温かく迎え入れてくれました。「銀座のお店は座るだけで5万円」などと常連客にからかわれて真っ青になる林田先生に、あかりさんは困り顔で優しくフォロー。
注文ひとつとってもスマートでかっこつけないところがかっこいい島田さんの落ち着きと余裕に、林田先生はひしひしと敗北感を感じてしまいます。
あかりさんの腕には今でもくっきりと人の手の痕がついていました。あの夏祭りの時に島田さんがとっさに支えようと掴んでついたアザ。改めて謝罪する島田さんに、美咲ママや常連たちは「責任問題だ」「嫁入り前の娘に」などとやんややんや大騒ぎです。
その様子を見ていた林田先生は、チクチクと痛む胸をごまかすように記憶を無くすまで飲み明かします。そして翌日、目覚めたのはなんとまさかの島田さんの家の居間!そこには猛烈に呆れている元教え子・零の姿もありました。
後日、進路相談にやってきた野口先輩にすべて話して相談するという大人にあるまじき迷走っぷりの林田先生。自分の家の住所も言えなくなるほど泥酔して、しかもお店の支払いはすべて島田さん持ち。情けない姿を零にまで見られてはもう立つ瀬がないのでしょう。
ライバルに何もかもお世話になって勝負する前に大きな借りを作った林田先生に「男としてかなりのピンチですな」と的確なつっこみを入れる野口先輩は心なしか楽しげです。
林田先生の三枚目ポジションは楽しくて好きだなあ。一生懸命で人間らしい魅力が林田先生にはあるのだから、多少は自信を持ってほしいものです。
まあ泥酔して意識を無くすのは確かに36歳の社会人としてはどうかと思いますが。しかも教え子に見られ、さらに別の教え子に洗いざらい相談するというwこんな先生がいたらおもしろいだろうな。
人を好きになることの恐怖を知ったあかりさん
そして微妙な三角関係の中心にいるあかりさんはというと、島田さんにも林田先生にもお店での態度はあまり変わりませんでした。
夜のお店で働いて三日月堂も手伝って、くたくたになるまで働くあかりさんに少し休んで眠るように諭すおじいちゃん。
あかりさんは島田さんにつかまれたアザを見て、楽しかったあの夏祭りの夜のことを思い出していました。雨の中、必死で守った白玉。支えてくれた男性。また島田さんと林田先生に会いたいなと思っていたら、2人ともお店に会いに来てくれて嬉しかったあかりさん。
転びそうになって誰かにつかまえてもらったのは子供の頃以来でした。夢うつつに昔父親に腕を支えてもらったことを思い出すあかりさんは母親のことをぼんやりと考えていました。
最後の最後まで父との別れに全身全霊で苦しんでいた母親の姿。人を好きになるということはこんなにも恐ろしいものなのだと、あかりさんは母親の背中を見て感じとっていました。
かけがえのないたったひとりの人の瞳から愛が消えていくのを、なすすべもなく見つめるしかできなかったふるえるような最後の日々。
人を好きになる恐怖を母親を通して知ったあかりさんは、無意識に誰かに対して好意を持つことをセーブしているのかもしれません。それを、あの夜お腹と二の腕をつかんで支えてくれた林田先生と島田さんのどちらかが動かせるのか。。。
宗谷さんを生き生きとさせた二海堂
真夏の戦い・東陽オープントーナメントが開催され、気合の入った二海堂の見据えるのは宗谷名人ただひとり。はやる気持ちを抑えきれない二海堂は宗谷さんに勝つことを前提に零と話します。
零としてはその感覚が信じられません。しかし二海堂は「経験で著しく劣る分せめて気持ちだけでも当たり負けはしてはいけない」と棋士として当然の姿勢を示します。
本当の気持ちを語る二海堂をまぶしく感じる零。二海堂はその気持ちの通りにガクト先輩を相手に夕べひらめいた手を試したりして、絶好調に勝ち進みます。
そしてとうとう宗谷さんとの対局。将棋の世界では、ラスボスが唐突に目の前に座っていきなりゴングが鳴ることがあります。それが将棋の世界の面白さでもあり怖さでもあるのです。
「今日の俺は今までで一番の俺だ」宗谷さんからの風を受けてさらに早く飛べる気がする二海堂。名人相手にまったく引けを取らずに対局に集中します。
宗谷名人のほうも二海堂との対局に夢中になっていました。いつになく生き生きとしている宗谷さんに「頂点に立つ男のあんな顔を引き出せたのが自分だったら…」と見守る棋士たちは皆感じていました。
二海堂が押している状況下で、興奮気味の二海堂の身体に突如異変が起きます。意識が遠のいてふらつく二海堂にハッとして、思わず二海堂の腕を強めに叩く宗谷名人。
倒れかけた二海堂を支えたのは隣りで対局していた後藤でした。結局二海堂は途中棄権、勝負は宗谷さんの不戦勝であっけなく幕を閉じたのでした。
あのまま戦っていたら二海堂が勝っていた。みんながそう指摘する中で、病院で目覚めた二海堂のところに宗谷さんから手紙が届きます。
手紙に書かれていたのはあの対局の続きの物語。「あのまま続けていても勝っていたのは俺」という宗谷さんからのメッセージに、二海堂は思わず笑顔になりました。
「次覚えてろよ」だなんてまるで「また指そう」と言われているようで嬉しそうな二海堂。零はそんな二海堂と宗谷さんの関係に嫉妬している自分に気づきます。
強くないと宗谷さんの視界に入れない。
零にとってあの雨の日に宗谷さんと一緒に歩いた記憶は、思ったよりずっと大切なものになっていたのでした。
人間の持っているちっぽけな権利
葬儀会社の長男の滑川さんにも今回焦点があたりました。棋士をしながら今も弟の継いだ葬儀会社を手伝っている滑川さん。いつも着ている黒いスーツはコスプレではなく本物の喪服スーツだったのです。
たくさんの人の人生の最後を見送っているのにどうしてもっと切迫感を持って生きられないのだろう?
滑川さんが将棋を愛しているのは間違いありません。しかし何年も何年も将棋を刺し続けていると、勝った喜びも負けた悔しさもすべてがぼやけてしか感じられなくなってしまいました。
今の自分の将棋にはつんざくような閃光を見出せずにいる滑川さんは、他人にばかり憧れ他人の将棋にばかり心を奪われ、少しでも相手に心を見せてほしくて迷路のような手を指してしまう自分に半ば嫌気がさしています。
「死ぬときにちゃんと生き切ったと思えるのでしょうか…」
滑川さんの弟は兄のことをよく分かっているようで静かに答えました。
「いつかは死ぬということを忘れて呑気に日々を過ごせるのは、人間の持っているちっぽけな権利のひとつなんじゃないかな」
滑川さんがトリッキーな手を指すのも本当は相手ではなく自分を追い込むため。真面目で不安定な滑川さんの将棋を好きだと言ってくれる弟に、どうやらお兄さんは頭が上がらない様子です。
滑川さんの意外に生真面目な一面を見ることができた兄弟の対話に何だかほっとしました。
香子の心境の変化と謝罪
後藤の奥さんのために買い物を引き受けてきた香子は、自分がもうすぐ後藤を失うということを薄々感じとっていました。
入院している奥さんが亡くなったらきっともう後藤は自分には会わないだろう。香子は月明かりの下で零の部屋の灯りを探します。しかしそこには真っ暗闇があるばかりでした。
川本家に自分の居場所を見つけた零を想ってどこか寂しげな表情を浮かべる香子。零が一番つらかった時、傷だらけの零に甘えてもっと傷だらけにしたことを心の中で謝罪します。
遠くからただ祈ることに意味があるかは誰にも分かりません。でももうそばにはいられない。それならばこれからはせめて零をそっと見守ろうと決めた香子は静かに涙を流すのでした。
3月のライオン13巻感想まとめ
前半はあかりさんをめぐる三角関係のドキドキワクワクに、後半は二海堂と宗谷さんの熱いガチバトルにぎゅっと胸を掴まれた13巻でした。
島田さんとあかりさんと零ちゃんの前でやっちまった感がある林田先生。ちょっと情けなかったりカッコつかなかったりしても、不器用ながらに一生懸命で実直なところが魅力でもあるので、あまり悩まずに自分の気持ちに正直に行動に移して頑張ってほしいところです。
手ごわいライバルになるであろう島田さんの落ち着きには痺れました。どうやら夏祭りで初めてあかりさんと会ったようで、島田さんは島田さんで思うところあって自らの意思で銀座に足を運んだのでしょう。
あかりさんの言動は今のところどちらにも寄っていない様子なので、またやきもきしながら14巻を待つことになりそうです。
二海堂のかっこよさは今までで一番だったのではないでしょうか。「同世代の中では自分が一番宗谷さんに近い」と心のどこかで思い上がっていた零の頭をかち割ったのはやはり二海堂でした。
私もなんだかんだ宗谷さんにもっとも近い10代の棋士は今のところ零なんだろうなと思っていたので、今回の二海堂の活躍には心躍ると同時にガツンと来たというか、襟を正したくなるような気持ちになりました。
宗谷名人が手紙のくだりでは意外と大人げないというか、俺は負けてないアピールがすごくてなんだかかわいかったです。宗谷さんだって人間。究極の負けず嫌いに違いなのでしょう。
不気味なお笑い要員かと思われた滑川さんにも兄弟のしっとりしたエピソードがあり、香子と後藤の関係にももうすぐ決着がつきそうです。
おそらく物語は閉じていく準備に入った段階なのでしょうが、個性的な棋士たちのことも、あかりさんの恋のゆくえも、ひなちゃんと零の関係もまだまだ知りたいことだらけです。もう少しこの厳しくも優しい世界に浸らせてほしいな。
14巻も楽しみに待ちたいと思います。
羽海野チカ先生のコミックス
前作のハチクロも名作中の名作です。
海羽野先生の初期の頃の短編がつまった作品集。ひなちゃんのもとになったとされる女の子も登場する短編集です。
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