腕づくで笑吉を思い通りにしようとしたサイコパスな福介でしたが、身も心もボロボロになって泣く笑吉の姿を見て、人並みに傷ついてしまいます。こんなはずじゃなかった。こんなふうに支配したかったわけではないのに…。
一見コミュ力がありそうなのは見せかけで、本当は人づきあいが下手で自分に自信がないということを笑吉に気づかれてしまい、心のバランスが崩れた福介。いったん職場に休職を願い出ますが…。前回の復習はこちら。
カラーレシピ下巻5話 ネタバレ感想
それでは以下はらだ先生の「カラーレシピ」下巻最終話の感想です。※ネタバレ注意です。
カラーレシピ下巻 電子書籍
カラーレシピ下巻最終話 感想 ネタバレあり
もう関わらない方がいいと分かっているのに…
実家の都合で1ヶ月ほど休職したいと美門さんに申し出る福介。復帰は未定で、指名客の引き継ぎも滞りなくすませています。あまりに急なことで、福介のいろんな意味を込めた「ごめんね」にも、笑吉は何も返すことができませんでした。
あんなことをされても当分会えなくなると分かると途端に表情が暗く沈んでしまう笑吉。気付けば自宅でも無意識にスマホを見ては、福介からの連絡を待っている自分にも嫌気がさしていました。
福介は前々から指名替えをするなら笑吉にとお客さんに伝えてあったようで、福介の担当だった子たちは大半が笑吉を指名してきます。とはいえあくまでも福介が復帰するまでの替わり。
笑吉は福介のお客さんと関わるうち、福介に会っておしゃべりするのが楽しみで美容院に来ている人ばかりなのだと改めて感じていました。
(本性はあんななのに…)
離れてみてまた感じることもあるのでしょう。実際の指名客からの生の声は絶大です。福介の美容師としてのトークスキルや集客力は、笑吉も認めざるを得ないものなのでした。
福介が休職して1ヶ月が過ぎる頃、美門さんは福介にまってく連絡が取れないと困惑しています。あれから笑吉にも一度も連絡がありません。不安が募っていく笑吉は、お客さんにもうまく愛想笑いを作れないほど気になっている状態です。
すると、以前笑吉の担当だったあのカラーレシピ改ざん事件の被害者である女性が、再び美容院にやってきました。実はあの時のカラーレシピを女性が案外気に入って、もう少し明るめにチャレンジしたいと改めて訪問してくれたのです。
しかもこの女性は福介と最近偶然会ったようで、そのことに軽く驚く笑吉。結局音沙汰のない福介のことが気になってしまい、笑吉は猛暑のなか家を訪ねてみることにしました。
別に戻ってきてほしいわけじゃない。カラーレシピ改ざんは許されるわけじゃない。でも指名客がみんな待っていて投げっぱなしはひどい。あんなみっともない姿を見せておいて逃げるのはずるい。むかつく。
もう関わらない方がいいと頭では分かっているのに、いくつもの言い訳を並べ、笑吉は福介の自宅のインターホンを鳴らします。
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今日のチラ見せ! カラーつき💗大反響連載、大増58ページで最終回!! はらだ先生『カラーレシピ』から
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生きがいを見失って自暴自棄になる福介
何度インターホンを鳴らしても返答がなく、笑吉がふとドアに手をかけると扉に鍵がかかっていません。おそるおそる足を踏み入れた部屋は、笑吉の部屋以上に生活感のない殺風景なものでした。ロフトにあがってみると、転がっている多数の酒瓶の近くで毛布にくるまった福介を見つけます。
強めに声をかけると小さな声で返事をする福介に「死んでるのかと思った」と戸惑い気味の笑吉。頭だけしか見えていませんが、飲まないと眠れないらしく、どうやらずっとこうして酒びたりになっていたようです。
終電逃したと言っていたのも嘘。もちろん休職のための実家の都合というのも嘘。いろんな人に迷惑をかけている福介に笑吉は心底あきれていました。布団の中から頭だけだして投げやりな福介。
「どうでもいい。疲れた。美容師やめる」
「なんだそれ」
「だってもうハッキリふられたんだもん。これ以上がんばっても意味ないし。ちょっとお休みして辞めようかなって」
「そんなことで辞めんのか!?」
「そんなことって何?俺の生きがい見失っちゃったのに」
福介は子供のころから何にも興味が持てなくて、調和や協調を求められるたびに、ずっと努力して演技をくりかえしてきました。そのくせ人に執着する性質でそれがすべての原動力。
なにか生きる糧がないとダメになってしまう福介は、これだけはどうしても欲しいと思った相手(笑吉)に嫌われてしまい、もう生きる気力がなくなってしまったのです。
自分を隠さないで自立できる君がうらやましい
「今までうまくやってきた分失敗が怖くて、だからどうしても(笑吉の)一番になりたかった」
困った顔で「とりあえず一回店に来るように」と諭す笑吉。指名客も美門さんもりくも一成も心配しています。しかし福介は駄々っ子のように声を上げました。
「これ以上拒否されるのこわいよ。俺は人づきあいが死ぬほど苦手なんだ」
自分を隠さないで自立できる君がうらやましい。
ぽつりと笑吉にかけた本音。何も偽らず不器用ながらも正直な自分でいられるまっすぐな笑吉に、福介は心惹かれていたのです。自分にはないものを持っている笑吉を心から欲しいと思っていたのは事実。
いつもの調子のいい福介ではなく、弱気で変わり果てたボロボロの福介に、笑吉はしばらく無言で言うべきかやめようか迷いつつ結局口を開きました。
「俺のことほしいって言ったのも、2人で店をやろうってのも嘘かよ」
「それは嘘じゃない…」
部屋を去ろうとする笑吉の服の裾を、福介が思わずつかみました。ようやく身体を起こした福介の顔は、髪は伸び放題、顔はむくみ、目元は涙で腫れてひどい状態です。泣きながら謝ってお礼を言う福介は、サイコパスななりは影を潜め、ただただ埋められない寂しさを抱えた子どものようでした。
ハッピーエンドは自力でもぎ取ってやる
結局福介は、職場に復帰してすぐに退職を願い出ました。すべてを受け止め快く送り出してくれる美門さんがイケメンすぎます。退職後は新しく美容院を開業することを笑吉に伝え、今までにないほどかわいらしく笑吉を誘う福介。
「それで…できることなら、しょ、笑吉くんにきて…ほしくて…」
計算しているのか本当に照れているだけなのか分からない愛らしい口ぶりで、遠慮がちに引き抜きのお誘いを口にした福介に、笑吉はYESともNOとも言いません。無言で福介の髪を掴んで不機嫌になるあたり、当然現段階ではNOなのでしょう。
約束通り笑吉にカラーをしてもらう福介は、笑吉のふとした笑顔を見て素直な言葉を口にします。
「好き。笑った顔かわいい」
つぶやくような小さな声に眉をひそめる笑吉。しかしあんなことをされて絶縁してもいいはずなのに、笑吉はこうやってまた辞めていく福介の世話を焼いているのです。こうして福介はまた少しずつ笑吉を懐柔していくのでしょうか。
いっぽう退職を聞いたりくは去って行く福介に声をかけました。
「指名客わざと残して罪悪感募らせていくの、責任感強い笑吉さんにはきつかったろうなあ。あんなん断絶防止のための人質じゃないですか」
うまいこと指名客を伝書鳩として利用していた福介の魂胆を、りくは当然見抜いていました。福介にとってはりくだけが誤算でしたが、とはいえもう退職する福介にとってただの他人です。
「笑吉さんの気持ちがアンタの気持ちを上回ることは一生ないんだろうなって思うとかわいそうです」
見てろ。ハッピーエンドは自力でもぎ取ってやる。
りくにだけ見せる悪い顔の福介は、最後までやはり福介なのでした。
仕切り直した未来に希望はあるのか
半年後、雪降る季節になり、一祝がようやくりくが男性だということに気づいてショックを受けていました。まる1年もずっと知らなかったとか、普通気づかない?wりくの女装はあまりにも綺麗すぎて疑いようもないのでしょうが、一祝が残念男子っぽくて笑えます。
しかもじーっと美人なりくを見て「たぶんいけます俺」とか言ってるしwりくは完全に一祝は眼中にないようですが、あっさりと「女装やめる」とか言い出しました。りくって女装をやめて髪を切ったらぜったい普通に美少年ですよね。
一祝も美門さんも福介が退職した後も食事をしたり飲みに行ったりと交流があるようで、福介の開いたお店も業界紙で取り上げられるなど順調な滑り出しを見せていました。ところが店をオープンしたことすら知らされていなかった笑吉は驚いてしまいます。
てっきり2人は連絡をとっているとばかり思っていた美門さんが、申し訳なさそうに福介のサロンの名刺を渡してくれますが、半泣きで「いいです。行かないです」とむきになる笑吉がかわいいです。前髪もいい感じに伸びました。
「ちょっと様子見てくるだけ。あいつ俺がいないとだめっぽいし」
行かないといいつつ福介のサロンに向かう笑吉。どうやら雑誌の記事で福介が笑吉のことを話しているインタビューを見たようです。
「どうしても店に欲しい腕の立つスタイリストがいて、その人が入ってくれればうちの店は完成するんですけどね」
などと記事内で語っている福介。幾度となく一緒に店をやろうと誘って、あれほど自分に執着していた福介が、たったひとりで切り盛りしている美容室。笑吉が気にならないはずがありません。
静かに待ち構えている福介のところへ、そうとは知らずに吸い寄せられるように訪れる笑吉。福介は素知らぬ顔で優しい笑顔で笑吉を迎え入れました。
さあ、仕切り直しだ。
カラーレシピ2巻最終回 感想まとめ
福介はタダで転ぶ男ではありませんでした。そりゃそうよね。最終回になって弱り果てて、随分とかわいくて殊勝な姿を見せるなあ、でもはらだ作品がこんなに丸く収まる?収まっちゃう!?と薄目で怪しく見ていたら、ラストの薄ら暗い微笑みですからね。
悪い男ふたたびです。やっぱりはらだ先生の描くサイコパスな病みキャラはこうでなくちゃ。
本性が8割ほどバレてしまっているわけで、ここからが福介の本当の腕の見せ所でしょう。むしろ福介にとっては本性がバレちゃってるほうがあえて取り繕う必要もないぶん、水面下での駆け引きが楽しくなってくるかもしれません。
これからは堂々と病的な好意を武器に笑吉を揺さぶり、ときに信頼し、ときに依存し、ときにプライドをくすぐり、ときに甘え、ときに突き放し、ときに情に訴え、じわじわと自分に取り込んでいくという筋書きが整いました。
福介の「好き」という気持ちは本物で、だけどそれは「生きがい」という名の病的な執着でもあり依存でもあります。好きになった相手を「生きる糧」とみなさないと自分らしく生きられない福介の心の闇は深く、底知れなさにゾッとしました。
笑吉を自分なしでは生きられないようにしたいという福介の考えは、今も変わりがないのでしょう。「俺がいないとだめだ」と笑吉に思わせるように仕向け、じわじわと罠にかかるまでひたすら自分の店で待ち続ける福介に、飛んで火に入るなんとやらとなった笑吉。
笑吉がかつて親切にしてもらった美門さんに対してずっと恩を感じているのは「情」を大切にするから。笑吉は不器用ではありますが、性質としては歪みのないまっすぐな人格設定なので、福介の執着を警戒しつつも、この先完全に彼を突き放すことはできなさそうです。
福介にとっても、むき出しの自分を見せたのは笑吉が初めてだったでしょうから、これからの笑吉との関係は手探りで、新たな境地に立つという意味でも興味深く感じているのではないでしょうか。
流されやすい笑吉は、いずれは福介が作った美容室に仕事として出入りすることになるでしょう。福介が作り出した閉じられたこの箱庭の中で、福介は笑吉にどのように向き合い、2人の関係はどのように変化していくのか。
この2人の行く末が、仕切り直した未来が、果たしてお互いにとって明るいものになるでしょうか。
「カラーレシピ」は破壊と再生の上に未だ発展途上な福介の新たな自分探しの物語だったともいえそうです。根本に寂しさを抱えたサイコパスが自分探しをしたらどうなるのか。
自分を隠さずに生きられる笑吉のように、いつの日か福介もありのままの自分を表現し、彼らしく生きられる日が来てハッピーエンドをもぎ取れるのか、それともサイコパスな方に振り切ってしまうのか。
誰か(笑吉)との関わりによって、これから福介にどんな化学変化が起きるのか、期待半分怖さ半分な素晴らしいラストにゾクゾクしました。病み属性な悪い男の悪い顔は大好物です。
はらだ先生、雑誌を移籍しての連載お疲れ様でした。5/1の新装版カラーレシピ上巻、6/1のカラーレシピ下巻、そして次回作も楽しみにしています。
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