高野ひと深先生の2冊目のBLコミックスは至極の短編集です。高野ひと深先生といえば少女漫画の「私の少年」が超名作ですがBLも描ける作家さんなんですよね。
セフレヤンキー、芸能界アイドル、再会、方言、お隣さんなどバラエティ豊かな短編揃いなので、どなたにもどれか刺さる作品が見つかるのではないでしょうか。
私は表題作のアイドルBLが一番好きで、高野ひと深先生の根底にあるアイドル論に触れたようで痺れました。それでは以下「つらなるステラ」の感想です。※ネタバレ注意です。
つらなるステラ 電子書籍
つらなるステラ 感想 ネタバレあり
元アイドルの俳優×現役王道アイドル
アイドルグループ「アドレス」に所属していたけれど、5年前に自分の道を見つけて脱退し、今は演技派俳優としてテレビや映画で活躍している蒼馬(攻)
ある日映画の記者会見中に、元いたアドレスが解散するのではないかという報道を耳にします。驚いて元メンバーに連絡をしようとする蒼馬を訪ねてやってきたのは、アドレスの人気メンバー・央司(受)でした。
解散話をうかつにはふれない蒼馬は、この騒動でマスコミやファンから逃げてきた央司をかばうように家に泊めることになります。
夜、追いつめられたような瞳で「俺のこと好きだっただろ」と自分に覆いかぶさってきた央司を優しくなだめて受け入れない蒼馬。本当はずっとその背後から見つめて好きだった相手。だけど央司が弱っているときに、簡単に手を出せないのでした。
星は星に届くんだよ
寒いインスタを投稿して、大げさに投げキスをして、甘い歌を歌って、へたくそなラップをして、見くびられたり馬鹿にされたり。
アイドルとして過ごすうち、だんだんアイドルという職業に燃え尽きてしまいそうになっていた央司。蒼馬に弱音を吐くと、キザなセリフが返ってきました。
「バカにされて見くびられても、それでもステージに立ち続けているお前はめちゃくちゃかっこいいだろ」
アイドル時代には、並んで隣りに立てる関係になれなかった2人。蒼馬はいつも1歩先にいるスター・央司の背中を見つめるしかありませんでした。でも今は違います。蒼馬は俳優としてその地位を確立したのです。
「こうやって俺がお前に触れるのは、やっとお前のいる場所に登ってこれたから。星は星に届くんだよ」
対等な立場になった今だからこそ向き合える蒼馬と央司の関係性。やっと1つになれた2人は蒼馬の家で静かに身体を重ねるのでした。
蒼馬が密かにロム専のインスタグラムを開設し、央司の写真にハートを飛ばすだけのアカウントを設置していたのですが、翌朝央司にバレてドン引きされるところが、蒼馬の肝心なところで好きな人にキメきれない魅力なのでしょう。
蒼馬はアイドル時代の人気はメンバーの中でもいまひとつで、輝く央司を後ろから眺めるだけだったようですが、俳優としてこういう人間臭いところが演技に反映されて花開き、演者として認められたのは良かったんじゃないかなと思いました。
感想まとめ
芸能界のそれもアイドルという簡単そうで難しい題材を、彼らの葛藤や苦悩をチラつかせつつ、それでも前向きなBLとしてストーリーに落としこめる先生は、本当にアイドルが好きなんだろうなと深い愛情を感じました。
あとがきにあった先生の好きなアイドルって、ジャニ○ズのグループっぽいけどどのグループなのかな。地味に気になる。担当さんとの「推しを原稿に描いてもいいんですよ」「えっ描くう」のやりとりは笑ってしまいましたw
アイドルってかなり大変な仕事だと思うんですよね。特に高齢化しつつある日本のアイドルは、若くてはつらつとした10代の時だけではなく、30代40代になってもグループでお揃いのキラキラした派手な衣装を身にまとって歌い踊るわけです。
そこに成人した大人としての葛藤や悩みがないはずはありません。アンチや悪口、同じ業界内でもアイドルへの偏見や「しょせんアイドル」などといういじわるな声も囁かれていることでしょう。
しかし応援してくれるファンには苦悩する姿などはいっさい見せず、いつも笑顔でプロとしてステージで輝く姿を見せてくれるのです。アイドルへのリスペクトを感じる表題作の満足度はとても高かったです。
表題作以外の短編を1つ挙げるとすると、ひょんなことからお隣さんとのラブが始まりかける「おとなりから笑い声」も素敵でした。あとがきの「スタバで笑い声が喘ぎ声にしか聞こえないリーマンを見て作った」という制作秘話を知った上で読むとじわじわきますw
どの短編もこれからの2人をもっと読みたい!というところで終わっているので、続きを妄想で補てんする楽しみもありますね。
高野ひと深先生は「私の少年」が大ヒットして、もうBLは描いてくださらないかもと心配していましたが大丈夫だと思っていいのかな。少しずつでもいいので今後も描いてもらえると泣いて喜びます。次は長編BLを読みたいです。
高野ひと深先生のコミックス
一般漫画です。最高です。