航平は、自分の存在が太一の将来を阻害したのではないかと、ひとりで悩んでいました。どんどん自分で自分を追いつめる航平。
いっぽう太一は、ぎくしゃくしている航平のことを気にかけながら、ヤスやヨコにそれとなく自分たちのことを相談していました。前回の感想はこちら。
ひだまりが聴こえるリミット2巻11話 ネタバレ感想
それでは以下「ひだまりが聴こえるリミット」12話のネタバレ感想です。
ひだまりが聴こえるリミット2巻 電子書籍
ひだまりが聴こえるリミット2巻12話 感想 ネタバレあり
リュウくんと偶然会った航平
電車内でパソコンを使って映像を送り、手話で会社の仲間と電話をするリュウくん。職場の仲間いわく、リュウくんが殴ったあの男の悪意あるSNSは、まだそれほど拡散されていませんでした。
しかしこれ以上大事になると、会社の信用問題にかかわってきます。近いうちに先方に謝罪しに行くということになりかけますが、リュウくんは納得できません。
一方的に電話を切ったリュウくんは、疲れたような表情です。そんなリュウくんを、目の前に座っている女子高生2人が、クスクス笑いながら見ていました。
リュウくんが手話で通話しているところを、馬鹿にしたように動画に収める女子高生。「何言ってるか分かんないから大丈夫」と、2人組は笑いながら話しています。
そこへ偶然乗り合わせていた航平が、リュウくんに声をかけました。女子高生は、いきなり現れた超イケメンがリュウくんと知り合いだということで慌ててしまいます。
航平は、ゲームのお披露目会で、場の雰囲気を壊してしまったのではないかと心配していました。ちょうど今からリュウくんの会社に行こうとしていたところだったのです。
大事な人を傷つけることのほうがずっと嫌だ
下車したリュウくんと航平は、近所の公演で話します。
「悪いのは向こうじゃん。分からないと思って目の前でコケにしたの。自分たちだって少なからず同じ目に遭ってるはずなのに、立場が変わった途端に、力を持った気でいるバカな連中だよ」
太一をバカにした男たちのことを、吐き捨てるように言うリュウくん。
「数が多ければそれが正しいことで、差別だなんて思わない。最低でしょ」
「そうだね」
航平は目を伏せて頷きます。リュウくんは航平に、あの後太一が男たちに何を言われていたのか気にしていなかったかと問います。
「俺から教えてあげようか?」
「こんなことで太一を傷つけたくない!言ったら許さない」
思わずリュウくんの腕を掴んで、大きな声を出してしまう航平。慌てて謝りますが、太一のことになると感情がコントロールできなくなってしまう自分に苦しみます。
「航平はあいつみたいになりたいの?今のままがそんなに嫌なの?やっぱり聴こえる人になりたいの?」
「太一は、目の前にいる人がどんな人でも、同じ目線で見てくれる。ただの一人の人として話してくれるんだ」
太一は、聴こえるか聴こえないかで人をより分けたりしません。太一自身に偏見がないからです。だからこそ、誰の心にでも寄り添えるのです。
航平は、そんな太一を見ていると、自分も周りに優しくできるのではないかと思えてくるのでした。しかしそれは幻想です。
誰かに「聴こえない」と伝えるたびに、自分が弱くなったみたいに感じていた航平。ここに自分の居場所はないのだと思っていました。
「それは俺自身が聴こえない人を心の底で差別していたからだ」
きっと自分は、耳が聴こえる立場なら、あの男たちと同じことをしたと語る航平。立場が違えば、太一を傷つけたのは自分だったかもしれない。
「聴こえないことより、大事な人を傷つけることのほうがずっと嫌だ」
兄の千葉さんから逃げたリュウくん
「リュウくんもそう思ってたから、千葉さんから逃げたの?」
千葉さんがあれほど流暢に手話を使いこなせるのは、よほど長い間使い続けてきたから。ずっとリュウくんのそばにいて手話を使ってきたからです。
「前に言ったよね。俺の彼女がかわいそうだって。俺を世話するために自分の人生を棒に振ってるって。あれってリュウくん自身の事なんじゃないの?」
核心を突く航平はさらに口を開きます。
「自分のためにこれ以上我慢してほしくなくて、ちゃんと自分の人生を生きてほしくて、だから千葉さんもろとも遠ざけたの?聴こえる世界から自分がいなくなればいいと思って」
図星をつかれたリュウくんは、真っ赤になって、航平に掴みかかろうとします。
障碍を持って生きると言うことは、寂しさに慣れる作業だ
太一は職場で急に降り出した雨を見つめながら、次の研修で使う補聴器を触っていました。航平がつけているものと同じ種類の補聴器を、実際に着けてみる太一。
すると耳元でガサガサと酷い音声が響き渡り、太一はうるささに驚いてしまいます。いくら調整したところで、拾いたい音だけ拾ってくれるわけでもないのです。
補聴器をしていても、健聴者のように聴こえるわけではありません。聴こえない人も実はいろんな音の中から、自分の得たい情報を探すという感じで、補聴器を利用しているのでした。
犀(さい)さんは、昔の彼女が聴こえない人で、懐かしそうに彼女のことを語り出します。お互いに嫌いで別れたわけではなかった犀さんと彼女。
大学卒業後、別々の会社で働き始め、まだまだ社内の理解を得られず苦労していた彼女は、どんどん憔悴していきました。
犀さんにはどうすることもできず、せめて一緒にいるときは彼女のために必死で立ち働きました。しかしそれは彼女にとっては逆効果だったのです。
彼女は犀さんとだけは対等でいたかった。犀さんに何かをしてもらうことが申し訳ないと言いだします。彼女の意思は固く、変わることはありませんでした。
犀さんのほうも、彼女にとって自分がプレッシャーになっているのなら、そばにいないほうが彼女のためだと思うようになっていきます。
結局2人は別れを選び、その後彼女は会社を辞めて別の施設で働いていると噂で聞いたきり。犀さんと彼女の縁は終わってしまったのです。
「障碍を持って生きると言うことは、寂しさに慣れる作業だ」
彼女は最後にそう言い残して、犀さんの元を去って行ったのです。犀さんは今でも、そんなセリフを彼女に言わせてしまったことを悔やんでいました。
千葉さんとじゃれあう太一を目撃
犀さんと彼女の話を聞いた太一は、自分と航平のことを改めて考えます。航平も彼女ようなことを考えているのでしょうか。
(そんな寂しさには慣れてほしくねーよ。どうやったら俺がいるって分かってもらえるんだろう…)
しかし、航平の口を重くしていた原因が、自分が散々言ってきた会社の愚痴のせいだったと思い当たる太一は、頭を抱えてしまいます。
悩む太一を千葉さんが気にして声をかけてくれました。太一はゲームのお披露目会のことで、リュウくんを素直に褒め称えます。
「あいつすごいっすね!あんなん作れるとか天才っすよ。タメなのに尊敬するっつーか、かっけーなって思って」
興奮して語る太一に、千葉さんは珍しく優しい笑みを見せました。自分にはいつも怒ってばかりの千葉さんの、弟の話題になった途端見せた柔らかい表情に、太一はハッとしています。
リュウくんに手話を教えたのは千葉さんでした。生まれて耳が聴こえないと分かってから、千葉さんは一生懸命本を読んで、独学で勉強したのです。
弟思いの千葉さん。太一は一人っ子だから、兄弟に憧れていました。
「散々兄貴ヅラしたって、俺みたいにうざがられて裂けられたら形無しだろ」
「オレンジ頭って、千葉さんのこと嫌ってるようには見えないんすけど」
本当に嫌いだったら、兄の会社の後輩なんて、ゲームのお披露目会には入れてくれなかったはずです。
「だから避けてるのは嫌いとかじゃなくて、別の理由があるのかもって思ったんですけど」
太一はリュウくんを見て感じたとおりの事を口にしました。千葉さんとしては盲点を突かれた感じなのでしょう。
そして本当は弟に嫌われていないかもしれないという可能性も、太一の言葉から感じとっていました。太一の髪をくしゃくしゃとする千葉さん。2人がじゃれあっていると、そこへ航平が会社を訪ねてやってきました。
しばらく太一と距離を置こうと思って
千葉さんと太一を見た航平は、表情も暗いままです。少し話したいと太一を呼び出した航平は、雨の中傘も持たずにやってきてずぶ濡れです。
タオルを取りに戻ろうとした太一を、航平は後ろから抱きしめて引きとめます。
「行かないで。ここにいて」
太一はひたすら航平のことを心配していますが、もどかしくも航平とはいちいち解釈がすれ違ってしまいます。
「太一、俺しばらく太一と距離を置こうと思って」
航平は「太一の事を考えると冷静でいられなくなるから少し頭を冷やしたい」と伏せた目で語ります。まさかそんな話をされるとは思っていない太一は呆然としてしまいます。
そこへタイミング悪く天童さんが声をかけてきました。雨がひどくなってきたため、千葉さんが車を出してくれるそうです。
航平はそれを断り、ひとりタクシーで帰って行きました。取り残された太一は、呆然自失で、ただその背中を見送るしかありません。先ほどの航平の言葉にショックを受けた太一ですが…。
感想まとめ
あああこじれたー!!航平がネガティブな選択をしてしまいました。ただ「別れる」と言わなかったのはまだ進歩かなと思います。
太一と出会う以前の航平なら、何もかもあきらめてすぐに別れると言ってしまいそうな雰囲気がありました。でも今は、太一の影響もあって、すぐに手を離そうとはしなかったのでしょう。
太一がこの距離を認めるかどうかは謎です。壁をぶち壊してきた太一なので、あっさりこの提案を受け入れるのかどうか。
ただ恋愛が初めての太一なので「距離を置く」ということが、恋人同士の間でどういう意味なのかも、分かっているのかどうか微妙なところです。
航平が太一を人として好きなように、太一だって航平を恋人としてだけではなく、人としても大好きなはず。
空気を読まず、太一が航平のところへ突進するのか、あるいは自分も愚痴を言ったせいで航平を追いつめたかもしれないと悩んでいたことから、お互いに冷静になる期間を作るのか。
千葉さんは、弟との関係がうまくいっていないなか、太一の言葉が単純に嬉しかったのでしょう。かわいい後輩と、普段は厳しい先輩でじゃれあっているだけで、この2人には他の感情はありません。
でも部外者で大学生の航平から見たら、そんなふうには見えないですよね…。図星を指されたリュウくんが、その後どうしたのかが気になります。
犀さんと彼女のことは切ないすれ違いですよね…。いったいどうすれば良かったのか。社会人になりたてで、お互いに仕事でいっぱいいっぱいな時だから、空回りすることもあったでしょう。
犀さんのほうは、まだ彼女のことが好きな様子だから、時間を経て大人になった今ならまた、違う選択&結末になるんじゃないかなと思いました。
航平は、心の底で聴こえない人を差別する気持ちがあったからこそ、聴こえる人たちのなかに自分の居場所がないと思っていました。
リュウくんの場合は、千葉さんが自分のために犠牲になるなら、聴こえる世界から自分がいなくなればいいのだと、家を飛び出してろくに実家に帰ってもいないわけです。
無意識で、聴こえない人を下に見ていたことに、航平は気づいていたんですね。だからもし自分が聴こえる人だったら、あの男のように、太一を傷つけたかもしれないと思ったのです。
太一にはそういう感覚や偏見が一切なく、人を人として見ています。だから航平には太一が眩しく映るし、自分にないものを持っていて、憧れの存在でもあるのです。
太一の魅力は十分伝わりますが、では航平の魅力は何でしょうか。それはきっと聴こえないからこそ、いわゆる「察する能力」が高いということかもしれません。
母親をはじめとする周囲を気遣う優しく我慢強い性格や、察する力が高すぎるゆえに、それが生きづらさに繋がってもいるので、短所と長所は紙一重です。
正反対の2人だけどすごくお似合いのカップルだと思うんだけどな。太一がどう出るのか、そして長いことおあずけになっている旅行がどうなるのか(そこ!?)次回以降に期待しています。
次回「ひだまりが聴こえるリミット」13話は12/28発売のCanna63号です。と思ったら次号はお休み。2月末発売のCanna64号になりそうです。
単行本「ひだまりが聴こえるリミット」2巻は12月28日に発売です。
それではまた「ひだまりが聴こえるリミット」13話の感想でお会いしましょう。
追記)13話の感想を書きました。
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