太一は職場で開催された研修会を経て、改めて千葉さんを目標にすると宣言します。障害のある人への対応について様々な学びを得た太一。
いっぽう人工内耳はつけないと決めた航平は、病院で偶然太一のおじいさんと出会っていました。前回の復習はこちら。
ひだまりが聴こえるリミット3巻15話 ネタバレ感想
それでは以下「ひだまりが聴こえるリミット」16話のネタバレ感想です。
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ひだまりが聴こえるリミット3巻16話 感想 ネタバレあり
研修会の意味
職場の研修会の後、みんなで今日のことをふり返るミーティングが開催されました。太一は一番の下っ端として会議の議事録をとっています。
組んだ人の足が速くて焦った、指示が大雑把で困った、介助のやり方には性格が出る、など様々な意見が飛び交います。
聴こえないという状態がどれだけ不便かを痛感した人もいました。
1対1ならまだいいけれど、聴こえる人同士で話しだすと入って行けなくて心細いと感じたり、何度も言い直させるのが申し訳なく感じたり。
自分のまわりにいる難聴の人は明るいけれど、本当はこんな思いをしているのかなと、逆の立場を体験して考えた人もいるようです。
その中で、今回の研修にはあまり意味がなかったと言う人もいました。どれも結果は予想できたからというのが理由です。
白熱する議論を、崔さんは嬉しそうに見守っていました。こういう活発な意見交換こそ、お互いに気づきを得るために必要な過程であり、研修会を開催した目的だからです。
あいつを1ミリも不安にさせたくない
「いっそ特例子会社みたいに障碍者のための環境を増やして、ハンデある人同士がお互いをサポートしあえばいいんじゃない?それなら待遇も平等だし、無理に健常者に合せて苦労することもない。なにより当事者同士の方が分かりあえるでしょ」
研修の受講者には、こんな極論を言う人も出てきました。そこで崔さんは、それまで黙っていた太一に意見を求めます。
「俺はあの世界がこわかったです…」
正直な感想を述べる太一。
「不安で心細かった。けどそれは見えないから聴こえないからじゃなっくて、ひとりで置き去りにされたような気がしたから」
太一はおじいさんが病院へ運ばれたときに、航平がそばにいて支えてくれていたことを思い出していました。
「俺のときは、そばにいてくれる奴がいて、俺の事を見てくれてるのが分かってすげー安心した。ここにいていいって言われた気がして。」
研修会のことではなく、いつしか自分と航平のことに置き換えて話す太一。崔さんや千葉さんをはじめ、まわりの人たちも静かに太一の言葉に耳を傾けています。
「この世界が俺らのために作られてるなら、俺らが変われば世界も変わるってことだろ。だったら一緒にいるのが特別で難しいことになんてしたくない」
「あいつを1ミリも不安にさせたくない」
「俺は俺にとっての当たり前があいつにとってもそうであってほしい。そういう世界にしたい。自分の居場所も、誰といたいかも、ハンデがあるとかないとかそんなことで決めてほしくない」
「自分の生きたいように生きてほしい。そのために俺はここにいるから」
俺といても、太一は幸せじゃないです
いっぽう航平は、太一のおじいさんに連れられて太一の家に来ていました。どうやらおじいさんに強引に連れてこられたようです。
太一からしょっちゅう航平のことを聞かされていたおじいさんは、航平の耳のことにもすぐに気づきます。
居心地の悪い航平は、すぐに帰ろうと思っていましたが、おじいさんがお腹を空かせていることに気づいて、持参したお弁当を差し出します。
「太一の奴、こんなうまいもん毎日食わせてもらってたとはな。あいつは大した幸せもんだぜ」
おじいさんの言葉に航平は思わず涙します。驚くおじいさんに航平はとぎれとぎれに声を絞り出します。
太一が自分の進路を変えてまで自分を助けてくれようとしたのに、自分は太一に何もしてあげられないこと。いざという時に守ってあげることもできなかったこと。
「俺といても、太一は幸せじゃないです」
航平は、聴こえないということを言い訳にしている不甲斐ない自分が、太一のそばにいたい、離れたくないなんてとても言えないと思って、ただただ静かに涙を流すのでした。
太一がただそうしたいと思っているから航平と一緒にいる
「あんたの耳が悪いからあいつがあんたと一緒にいると思うのかい?あいつはあんたが思ってるよりずーっとバカなんだよ」
昔から後先考えずに、壁があれば避ける前に突っ込んでいくようなまっすぐな性格の太一。航平は太一と違って考えてから動くタイプです。
将棋の騎士のように、何手も先を考えて想像してしまう航平は、ありもしない未来まで想像して前に進めなくなっているのでした。
太一は計算ができない分、表も裏もありません。前だけ向いて行きたい方向へ突き進む。損か得かなんて二の次なのです。
「あいつがお前さんといるのは、ただそうしたいと思ってるから。それだけだ。感情のままに動くのもたまには悪くねえ」
おじいさんもおばあさんが突然亡くなったときに、そのことを太一から教わりました。あまりにも突然のことで葬儀で涙も出なかったおじいさん。
幼い太一が、おばあさんの出棺の時に感情のままに大泣きしたことで、やっとおじいさんも哀しみを実感して泣くことができたのです。
「俺はあの時、あいつに命を救われたのさ」
太一の両親がゴタゴタしていた時におじいさんが太一を引き取ったのは、太一への恩返しみたいなものでした。
一人じゃないと思えること=守っているということ
おじいさんは航平に頼みます。
「俺がいなくなってもあいつのそばにいてやってくれ」
おじいさんの言葉にドキリとする航平。しかしおじいさんは今は本当に病気などはなく、医者が太鼓判を押すほどに元気いっぱいのようです。
とはいえおじいさんも年は年なので、この先太一とずっと一緒にいることはできません。
おじいさんは太一を親から引き離したことを気にしていました。自分がいなくなったら太一がひとりぼっちになってしまうと心配していたのです。
「俺はそばにいても何も…役不足です」
うなだれる航平に、おじいさんは口を開きました。
「さっきあいつを守れないとか言ったな。守るっていうのはどういう意味だい?体はって楯になろうってかい?もうガキじゃないから、どこに行くにも貼りついて行くなんて無理な話だ」
「けど人は辛いときには支えが欲しくなるもんさ。たとえそばにいなくたって、同じ気持ちでいてくれる、顔を思い出せる、自分を信じてくれる奴がいるだけで救われることがあるんだぜ」
「一人じゃないって思えることは、守られてることにならないかい?そういう意味じゃ、あんたはとっくにあいつを守ってるんじゃないのかい」
帰り際、玄関先でおじいさんに頭を下げる航平。
「長生きしてください!お願いします」
太一のために一生懸命おじいさんにお願いする航平。強がっていても、おじいさんが病院に運ばれたときに震えていた太一の気持ちを、航平は忘れていませんでした。
他人に長生きしてと頼まれるなんて初めてだと、おじいさんはびっくりして笑うのでした。
良い友達をもったな。大事にしろよ
研修会が終わった帰り道、太一は航平の家に寄ってみることにしました。しかし、せっかく話をしようと意気込んでいたのに、タイミング悪く誰もいません。
ぶつぶつ言いながら自分の家に帰った太一は、誰かが家にいた形跡を見つけます。おじいさんに聞いてみると、なんと航平が来ていたと言うではありませんか。
「良い友達をもったな。大事にしろよ」
おじいさんの言葉を背に、太一は家を飛び出して航平を追いかけます。歩道橋の上から航平を見つけた太一は…。
感想まとめ
ぐっとくるシーンが盛りだくさんで胸がいっぱいです。太一の研修会後の言葉が本当に胸に刺さりました。
誰もが当たり前に幸せになれる世界にしていきたい。誰もが不安なく、生きたいように生きていける世の中にしたい。
障害の有無は関係なく、それを特別なことになんてしたくない。これは生きている誰もが望む世界ではないでしょうか。
理想論だし青臭いのはその通りなのですが、でもそれを目指して皆が変わろうとしない限り、この世界は良くなっていかないのだと思います。
おじいさんの言葉も、ぐっときて心に響きました。
物理的に守るということだけでなく、信じられる人(家族や友人や恋人etc)が一人いるという事実だけでも、人は絶望から救われるものです。
誰かに大切に思われているという安心感は、つまり誰かに守られているということ。自分はひとりぼっちではなく居場所があるのだと感じるだけでも、人は踏ん張れるのです。
おじいさんの言う通り、航平は太一を思う気持ちだけでも十分に太一を守っているのです。航平は先読みしすぎて、頭でっかちになっていたんですね。
いくら強がっていても、高齢のおじいさんのことで不安な気持ちを抱えている太一を、航平が察して心に留めているだけでも、太一にとっては十分に心強いことだと思います。
そんな優しさを持っている航平の存在が、太一にとってどれほど慰めになっていることか。。。
航平も太一も、お互いにかけがえのない存在にもうなっているじゃないですか。あとは気持ちをぶつけあって再び歩み寄るだけです。
Cannaって一般的なマンガ雑誌の中でも高額なお値段の部類に入ると思うんですよ。1000円超えてますから。
でも、このひだまりを読むだけでもその価値は十分あると思うし、恋愛物語というよりも2人の青年の成長物語として、私自身もいっぱいいろんなことを考えさせられています。
次回「ひだまりが聴こえるリミット」17話は12/28発売のCanna69号です。年末ですね。
それではまた「ひだまりが聴こえるリミット」最終話の感想でお会いしましょう。
追記)最終回の感想を書きました。
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