ちょうど昨年の今頃に発売されたコミックですが、発売当初はSMの痛そうなのは苦手かなと思って敬遠していましたが口コミを見て読んですごく良かったです。
ただただ激しいSMプレイをヤッてるだけのお話ではなく、根底にストーリーありきなのでぐっと入り込めました。
確かに痛い描写はありますが、それ以上に2人の心境が切々と伝わってきて、SMってなんだろう、性行為ってなんだろう、人間関係ってなんだろうということまでなんだか考えさせられました。
ノーマル似非S×真性ドM
かわいい顔して真性ドМのゲイ・飛田くん(受)の、プレイメイトとしてつきあうことになった真澄(攻)は、飛田くんの性癖に合わせて、彼が望むようなSMプレイに興じます。
飛田くんが喜ぶことをメインとしたSMプレイで関係を続ける2人ですが、プレイが激しくなるにつれ真澄のほうは飛田くんに心惹かれていく。
いっぽうドМの飛田くんのほうは、快楽を追求することだけに集中していきます。快楽を得るためにならなんでもする飛田くん。ほしがる表情も欲情した表情も、すべては快楽のため。そしてこの表情のエロいこと。
いたぶられることだけに、この上なく快感を得る飛田くんに対し、真澄のほうは気持ちが伴わないまま、徐々にSMプレイはエスカレートしていきます。
縛る、吊るす、首を絞めるなど過激さを増していくも、快楽以外に自分には興味を示さない飛田くんに、真澄はイラつきます。いっそうひどいことをしてその感情をぶつせてしまう真澄。
いたぶることが唯一の愛し方だなんて、気持ちが変化してきた真澄にはつらすぎますね。。。真澄としてはもっと普通に愛し合いたい。だけど飛田くんはそれを望んでいない。
性の不一致とはこのことですが、お互いに必要としてはいるのに、平行線のように交われないというもどかしくも切ない展開になってしまいます。
俺はセックスで喜んだらダメなのか?
飛田くんの言葉が決定的に2人の性行為への考え方の違いを指示しているようで。。。最後に真澄が普通に飛田くんを抱きますが、やはりそれでは満足できない飛田くん。
2人は結局別れを選ぶんですが、ラストで飛田くんのほうから真澄に会いに行って最後はちゃんとハッピーエンドになったのでほっとしました。
これから2人は、真澄の望む普通の恋人同士の関係をほどよく保ちながら、飛田くんの望むプレイにも興じるという、歩み寄りやすり合わせをしつつ良いカップルになっていくんだろうなと思いました。
ただ単純なSMものとは違って、求める者と与える者が完全に一致していないと辛い思いをすることになってしまうんだなあということが切実に伝わってきて、しんみりと考えさせられました。。
特に真澄のほうは、いたぶるだけが愛情表現ではないと思っていて、だけど相手が望むことはそれだけでという、切ない心境だったと思います。
恋人や友達やどんな人間関係でも、どちらかが無理な行為を強いるといういびつな関係を長いこと続けるのは難しい。必ずどちらかの心が悲鳴を上げるか、その前に関係が崩壊してしまいます。
飛田くんのドMという性癖は誰もとめることはできないし、本人の自由でもある。しかし性行為とは2人でやる行為なのに、片方だけが望む形にしかできないとなると、そこには溝ができてしまう。
「俺はセックスで喜んだらダメなのか?」という哀しいセリフは、いわゆる「性の不一致」というものが恋人関係を解消せざるをえないほどの大きな壁になるということの象徴のようで、ヒリヒリと痛くて哀しかったです。
だからこそ最後に、自分の快楽の追及ばかりだった飛田くんのほうから動いて歩み寄ったことが嬉しかったし、決裂したままでなくてよかったと心から思いました。
心も体も、が理想ではありますが、最初からそんなに揃うはずもない。
未熟な2人がきちんと歩み寄ったことで、ここからが始まりだという人間関係のリスタートに立ち会えたようで、読後感がとても爽やかでした。
SMという強烈なテーマのもとに、恋人関係という親密な人間関係の在り方について考えさせられて、だけどとても希望を持てるようなお話です。おススメです。
その他各電子書籍サイトはこちら。ご利用の状況に合わせてどうぞ。
井戸ぎほう先生のその他BL漫画。